AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第1号~第4号

Contents

   1. インドの労働組合と政党の関係
   2. インドの労使紛争
   3. インドの労使紛争斡旋機関
   4. 使用者団体から視た労使紛争への対抗措置

1. インドの労働組合と政党の関係


インドの労働組合と団体交渉

団体交渉制度は賃金と労働条件の交渉・決着の主要なツールとしてインド産業界に十分に定着している。 一般的に、労働組合との労働協約は3年の有効期限となっている。 インドは団体結社の権利と団体交渉に関するILO87条、89条を批准していないが、 1926年の労働組合法は、労働組合に団体交渉の権利を認めている。 また、インド憲法19条で結社の自由を保障している。1947年の労働紛争法は団体交渉を促進し、 産業界の民主主義を保障する団体交渉の労働協約を保護する法律である。

インドの労働組合運動の弱点

インドの労働組合運動には固有の弱点がある。 この弱点は、最終的には法の不備とインド経済の構造的欠陥に起因しているが、 労働組合運動の弱点は大きく言って3つ挙げられる。
第1に企業の労働組合事務所の従事者に外部関係者が多い。
1926年の労働組合法22条では、労働組合事務所の従事者は、 外部の関係者(企業の労働者でない者)の占める割合は50%以下でなければならないと規定したが、 それ以前は、労働組合事務所の2/3の従事者が外部の関係者だったこともあった。
第2に政治の影響力が強い。
インドの労働組合運動は自由運動の政治リーダーの影響を受けて成長したため、 労働組合はいまだに政党のカラーに染まっており、 今日、インドの労働組合は政党の下部機関化していると述べてもおかしくない。 つまり、職場に政治を持ち込んでいる。
第3として、外部の関係者は、会社の問題について誠実に対応せず、 会社が外部の関係者の個人的な利益のカモとなりやすい傾向がある。

労働組合の複数連立

1926年の労働組合法4条は、いかなる産業でも全労働者の10%の人数で労働組合が結成できると規定している。 このことは、100人の労働者が就業する企業では10の労働組合が結成できることを認めることである。 インドの企業における労働組合の複数連立はふつうに見られ、1つの企業に労働組合の数が10から15もある例もある。 こうした状況が労働組合運動を分裂・弱体化させ、労働組合同士の内部抗争を助長している。

労働組合による政治問題化

前述したように、インドの労働組合は、様々な政治イデオロギーを持つ諸政党の下部機関として系列化しており、 そのことが産業界における労働組合の機能に影響を与えている。 また、政党の支持のない、労働者による同情ストライキもよく起こり、その場合、 ストライキが複数企業に連鎖するために産業は実質的に麻痺し、甚大な損害が生じる。

広大なインフォーマル・セクター

労働者のたった7%が、組合のある経済のフォーマルセクターに従事しているにすぎない。
インフォーマル・セクター(注: 国家の統計や記録に含まれない経済活動で店舗を持たずに路上で商売を行ったり、 行商を行ったりする労働を指す)は組織化されておらず、正当な労使関係を築くことなく、 合法とは言えない経済活動を行っている。 56%の労働者が自営業者で、組合活動には関係していない。 組合は、ようやくインフォーマル・セクターの労働者の組織化を試みようとしているところだ。

2. インドの労使紛争

労使紛争とは、労使の合意が得られない事態の紛争である。この言葉は、労使、労働者間あるいは使用者間における雇用者、失業者、雇用期間に関する紛争である。このような関係者間で利益の衝突が起こると、どちらかの側が不満足な結果になり、労使紛争が起こる。その形態は、抗議運動、ストライキ、デモ、ロックアウト、出社拒否等であるが、労使紛争には2つの側面がある。

 

    ・紛争に対する対抗手段―雇用終了、解雇、停職、レイオフ、労働者の削減、工場の閉鎖
    ・紛争による利益要求―より高い賃金、手当、ボーナス、社会保障給付金の要求、よりより労働条件、安全な職場環境の要求、労働日の期間調整、休憩時間と肉体労働のインターバル回数などの要求

 

インドでは1947年の労使紛争法がすべての労使紛争の審議・決着の主な法的根拠となっている。 この法は、ストライキやロックアウトを合法的に行うことができる場合と非合法になる場合について、レイオフ、労働者の削減解雇、工場等閉鎖を行う際の条件やその他の労使関連の事柄について、様々な事例を列挙している。

 

インドの労使紛争(労使紛争件数、ストライキ、ロックアウトによる労働損失日数)

  1990 1995 2000 2005 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
1-11月
ストライキ
件数
1,459 732 426 227 210            
ロックアウト
件数
366 334 345 229 179            
紛争数 1,825 1,066 771 456 389 421 345 447 370 439 179
労働損失
日数
(百万単位)
24.10 16.30 28.76 29.67 27.16 17.43 17.62 23.13 14.45 12.72 3.26

国の行政レベルでは、労使紛争法は労働雇用省の労働局によって管理・運営されている。労働局は、また労使紛争決着のための制度的枠組みの改善に携わっている。安定的で尊厳があり、有能で、搾取から免れ、高いレベルの生産能力のある労働力を確保するために、労働局は中央労使関係機構(CIRM)と密接な連携して行っている。CIRMは、中央労働コミッショナーを長として、労使関係の維持、労働法の施行、労働組合会員の照合等の委託業務を行い、協調的な労使関係を確実なものにする努力をしている。 

3. インドの労使紛争斡旋機関

労使紛争法は、中央政府機関と並行して州の労使関係機構によって管轄されているため、 紛争の仲裁は州政府が大きな権限を有する。 労使紛争は、一般的に、州政府の介入、調停、仲裁、調停、裁定によって解決される。
ストライキやロックアウトを回避するために、州政府が適切に介入して労使紛争を審議・解決を図るために、 次のような機関が法的に整備されている。

苦情改善機関 (Grievance Redressal Mechanism)

労使紛争法は、20人以上の雇用者が12か月以上雇われている事業所では、使用者が「苦情調停機関」を設置する義務があることを述べている。この機関は、各事業所の労働者の苦情を調査し、対処する責任がある。

労働委員会 (Works Committee)

100人以上の雇用者がいるすべての企業は、労使同数による労働委員会を設置することが求められている。労働委員会は企業レベルでの良好な労使関係を促進させる役割がある。

調停官 (Conciliation Officers)

労使紛争法は、政府により調停官の任命を行う。調停官は、労使紛争を仲裁し、紛争の解決を促す。労使から選ばれ、双方の違いを解決する支援を行う。解決した場合は、政府に報告をする。

調停委員会 (Board of Conciliation)

政府は、紛争が起こった場合、適任を思われる議長と2名から4名のメンバーからなる「調停委員会」を任命する。議長は中立で、他のメンバーは紛争中の両者の側から同数、指名される。紛争が持ち込まれたら、遅延なく紛争を調査し、両者をフェアに扱い、紛争の友好的な解決を誘導する活動を行う。

任意仲裁 (Voluntary Arbitration)

調停手続きが失敗に終わった場合、調停官は両者に紛争を任意仲裁に委ねるよう説得する。任意仲裁は両者の紛争を解決する際に用いられる。はっきりした決着を望む紛争のケースではあまり行われない。

実情調査委員会 (Court of Enquiry)

政府は、場合に応じて、労使紛争に関連する事柄を調査するために「実情調査委員会」を開く。普通、6か月の調査後に政府に報告することになっている。この委員会の構成は、政府が認める1名から数名の中立委員で、そのうち1名が議長に任命される。

労働裁判所 (Labour Courts)

政府は、服務規程、労働者の解雇、不法なストライキ、ロックアウト、慣習的な便益の撤廃等の問題のような労使紛争を解決するために労働裁判所を開く。政府によって指名される1名から構成される。

産業審判所 (Industrial Tribunals)

政府は、労使紛争を解決するために「産業審判所」を開く。政府によって指名される1名から構成される。労働裁判所で扱う案件ばかりでなく、賃金、ボーナス、手当、便益、労働条件、規律、合理化、経費削減、事業所の閉鎖に関する事項を扱う。

全国産業審判所 (National Industrial Tribunals)

中央政府は、官報に通知を出し、複数の州にまたがる事業所で労使紛争が起こっている場合にはその重要性を鑑みて、労使紛争を解決するために「全国産業審判所」を開く。政府によって指名される1名から構成される。

4. 使用者団体から視た労使紛争への対抗措置

使用者団体は、労使紛争に関連して、以下のような案件について常に中央/州政府、および関係諸機関に要望している。

1) 任意仲裁を促進する

任意仲裁は労使紛争法に規定されているが、個々の紛争解決手段に使われるのは稀である。インドの使用者達は、調停に移行する前に、政府が強制的に任意仲裁を行うように要求している。

2) 労働組合の複数擁立の抑制

使用者団体は、企業では少なくとも25%の従業員数をもって組合の登録を条件とするように、一貫して政府に労働組合法の改定を要求している。

3) 団体交渉当事者としての労働組合の承認

マハラシュトラ州、マドヤ・パラデシュ州以外は、労働組合が団体交渉の当事者として承認する立法化が行われていない。これは、労働組合が協約を結び、紛争を避けようとする当事者になることを妨げる。

4) ストライキの通告

インドは、労働者が公共サービスを利用して宣言する以外、ストライキの通告のない珍しい国である。このため使用者は、組合と労使紛争を防ぐための交渉を行う時間がなくなる、それ故、使用者団体は、ストライキが行われる際に2週間の事前予告を要求している。

5) 法規条項の順守

企業の使用者は、労働者の安全衛生管理面に関して、すべての法規条項の順守をすべきである。現場レベルの労働者との良好なコミュニケーション・チャンネルを確保し、疑惑や不安を払しょくさせる必要がある。