経営者インタビュー

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『事業を拡大し上質なグリセリン石鹸を日本やラテンアメリカの国々に届けたい』 ~アルゼンチンの美容・パーソナルケア製品製造会社の工場長に聞く

2017年12月8日(金)10:00

 (Argentina/アルゼンチン)

 

La Farmaco Argentina
Mr. Andres Martin Funes (Plant Manager)
Argentina

 

AOTSが提供する研修プログラムには、新興国を含む海外諸国から多くのビジネスパーソンが参加しています。対象参加者の職位は研修プログラムによって異なりますが、経営者層に向けたプログラムも提供しています。

 

今回、アルゼンチンにおいて美容・パーソナルケア製品の製造を行う会社の工場長にお話をうかがいました。

日本のビジネスパートナーを探しています

La Farmaco Argentinaは、1904年の設立以降、石鹸、デオドラント、タルカムパウダー(ベビーパウダー)、ボディークリーム、シャンプー、コンディショナー等の高品質な美容・パーソナルケア製品を製造しています。当社には300人の従業員がおり週5日、24時間生産体制で業務を行っております。年間の売上額は4,000万USドルです。現在、アルゼンチン国内のみで販売されていますが、今後、まずはチリ、ボリビア、パラグアイ、ウルグアイへの輸出販売を予定しています。また、合弁会社のパートナーとなる日本企業を探しています。当社のターゲット市場は大きく分けて2つあり、ひとつは、お母さんと赤ちゃんが一緒に使える上質なタルカムパウダーとグリセリン石鹸です。もうひとつは、お手頃価格の家族用まとめ買い商品です。

ブランドネームを維持する

-御社の経営方針についてお聞かせください。
 
当社の経営方針は、生産力のある職員を育成するための環境づくりをすることです。定められた戦略やプランに従って業務を行いながらも、業績によっては様々な福利や特典を得ることができ、そうすることで職員を奨励しやる気を高めています。
 
私個人が、マネジメントをする上で大切だと思うことは、門戸を開放する、手本を示す、きっかけを与える、やる気を与える、基準を超える、一生懸命働く、そして何より自分の仕事を楽しむということです。
 
当社は、商品の品質維持とブランドネームをとても大切にしており、これらに関して妥協は出来ません。アルゼンチンには、「ビジネスをする上で最も大切なものはブランドネームである」という言葉があります。
 
ある調査では、会社の8割がその設立後5年以内に倒産または廃業しているとのことです。私の会社は、大企業ではありませんが、100年以上続いていることは誇れることです。

上質なグリセリン石鹸とタルカムパウダー

現在、当社はグリセリン石鹸とタルカムパウダーというニッチ市場の製品を製造しております。取り組んでいる課題は、消費量を増加させることとラテンアメリカへの新市場進出です。当社が販売するグリセリン石鹸は、低刺激でPH(ペーハー)値もとてもバランスが取れているので、皮膚科医も推奨しています。植物性で豊富なミネラルを含み、化学物質は使用されておりません。石鹸の透明感はその純度の高さの証です。私自身も毎日家で使っています。もちろん体だけでなく顔にも使えます。当社のタルカムパウダーもまた高品質で、原料はブラジルのみから輸入しております。アルゼンチン産のタルカムパウダーはほとんどが灰色ですが、当社のものは純白色です。

 

市場の大手企業と競合するためには、コストを下げなければなりません。製品価格の5割以上を占めているのは、高価な原材料です。しかしながら、先にも述べた通り、製品の品質に妥協は出来ません。我々は、現在、海外の皆さんに我が社の製品をより知ってもらうために、研究開発、マーケティング、物流・加工費を再検討しています。短期間で完全なリブランド(企業イメージの再編)を達成できるようにすでに取り組みを始めています。当社の経営方針に沿いつつも、市場価格と競える既存コストの改善手段も現在探求中です。

当社の石鹸を試してみてください

-国内外におけるビジネスの展望をお聞かせください。

 

1999年、Alberto Culver International社により当社La Fármaco Argentina は買収され、その後ラテンアメリカ各国に当社の製品が輸出されていたのですが、2010年、Unilever社に買収されたことにより輸出は減少しました。今現在でもUnileverには製品の納入を行っております。昨年、当社は国内企業のSantiago Saenz社に対して売却されました。現在は、国内販売の数も増え、新市場への進出も検討し始めています。

 

当社は、高品質な製品を手頃な価格で販売することが出来るため、海外のマーケットにおいて必ず戦略的パートナーになれる自信があります。企業オーナーであるSantiago Saenzは、日本の住友商事とも取引があり、製品の材料調達をしております。国内における既存製品の製造販売も維持しながら、海外の新製品の開発も視野に入れています。

 

日本には、何度か訪れたことがありますが、我々が販売するような種類の石鹸は見かけたことがありません。例えば、液体ボディーソープは何種類も異なるメーカーのものがあるのですが、グリセリン石鹸は見たことがありません。是非、グリセリン石鹸を試してみてください。日本企業とビジネスパートナーになれることを願っています。必ず事業を拡大し我々の製品を日本やラテンアメリカの国々に届けられる自信があります。まずは、最大の課題となる流通コストを下げることですが、すでに解決策を考案しております。繰り返しますが、物流・加工費は再検討の必要があります。これらを改善することで、海外に当社のブランドを進出させるための必要な資金を獲得することが出来るでしょう。

アルゼンチンの労働習慣

アルゼンチンのほとんどの中小企業にとって、高いコストとその他の様々な問題が理由で、信頼のおける生産者との関係を維持することが困難となり、市場リサーチへのアクセスにも制限が出てしまいます。
 
ひとつの会社で一生働くという習慣がある日本に比べると、アルゼンチンの企業では上級および中級管理職のメンバーがかなり頻繁に変わります。我々のようにインフレが起きている国では、工場の従業員は、ひとつの会社、会社の方針、会社の維持に貢献しようとはしません。複数の仕事を掛け持ち、短期間で稼ごうとするのです。彼らのモチベーションを上げて製品の品質を保つということは、我々にとって先例のない大きな課題となっています。
 
また、優秀な職員を引き留めておくことも大きな課題です。多国籍企業などの会社は、高い給料を支払うことで優秀な専門家を探します。これによって、我々のような国内企業にとっては、優秀な職員を引き留めることや、長期プロジェクトを作成することがさらに困難になるのです。
 
当社には、人材育成のため様々な方針があります。職員は、技術習得について年間の目標を設定します。当社で製造された製品が毎月職員にプレゼントとして贈られ、医療保険、食堂サービス、フレックスタイム勤務、個人の成績または会社の業績によって支給される特別賞与や年間ボーナス、年間研修プログラムなどの福利があります。アルゼンチンでは、同会社に留まると毎年給与が1%ずつ増えるというシステムがあります。
 
私は、真の変革とは全員参加により達成し得るものだと常に思っております。自分の仕事が組織に直接反映されている様子を見ることが出来るのは、大きな会社では難しいことでしょう。

毎年、日本を訪れます

私は、ここ数年間、年に一度は日本を訪れています。初めて日本の文化や日本企業について知ったのは、大学でエンジニアリングを学んでいた時です。トヨタ生産システムであるSMED(シングル段取り)やTQM(総合的品質管理)について学びました。私は、(生産に対する)その誠意に非常に衝撃を受け、私たち学生は、その生産管理によりもたらされる成果に感心しました。いつか必ず現地を訪れ自分の目で確かめたいと思いました。大学を卒業した時、北海道から沖縄まで一ヶ月間旅をして、国や人々について詳しく知りました。たくさんの寺院やトヨタ、ホンダ、アサヒなどの工場を訪れました。
 
この訪問の際に、金沢の兼六園の近くのカフェでとても驚く出来事が起こりました。30代くらいの女性が私の近くのテーブルに来て、リュックを下ろし財布を開けてクレジットカードを取り出し、コーヒーを買いに下の階に行ったのです。彼女の財布は、大きく開いたままテーブルに置かれ、彼女が戻ってくるまでの15分間そのままの状態だったのです。これには本当に驚きました。安全な社会が、私が経験したことのない自信を彼女に与えたのだと確信しました。
 
日本の人々は、年上を敬い、電車では話さず、道にゴミは捨てず、帽子を取り頭を下げて挨拶をし、常に許可をとり、感謝を伝え、時間を守り(秒まで正確な電車、5分前には来る人々)、そして常に協力的です。一度は、インフォメーションセンターの女性が、私が目的の電車に間に合うように15ブロック(区画)も一緒に走ってくれたこともありました!日本に来るたびに、自分の家のような快適さや落ち着き、そして安全性をいつも感じています。
 
日本の企業は、社会におけるこれら全ての強みを経営に活かすことで、世界におけるベストモデルになれると思います。
 
ありがとうございました。