日本で働く力を育てる──専門学校留学生への日本語教育と就労支援
専門学校で学ぶ留学生の多くが、日本での就職を目指しています。そのような学生に対して、日本語教師はどのような指導・支援を行っているのでしょうか。2023年度AOTS教師研修を修了された三浦千尋さんに、専門学校での教育実践と課題について伺いました。
日本語教師になったきっかけと、これまでのキャリアについて教えてください。

大学では情報系を専攻し、学生時代に中国へ留学した経験があります。外国人と関わる仕事がしたいという思いはありましたが、卒業後はシステムエンジニアとして働いていました。その後、日本語教師養成講座を受講し、日本語教育の道へ。教師歴は15年ほどになります。
日本語教師になってすぐはさまざまな現場を経験しようと思い、日本語学校、企業でのビジネス日本語研修のほか、行政が主催する日本語教育にも携わりました。外国人が多く暮らす浜松市では、行政の多文化共生の取り組みも活発で、日系人向けの就労日本語指導や生活日本語などがあり、それに関わることができました。この時期からビジネス日本語を極めたいと考えるようになりました。
その後、海外で働きたいという思いが強くなり、留学経験のある中国を選びました。中国人社員に対する業務用の日本語指導を担当しましたが、N1取得者でも実務で使える日本語が身についていないことが多く、教科書の日本語が現場で通用しないという課題を痛感しました。
現在の教育現場について教えてください。
現在は、静岡県浜松市にある浜松未来総合専門学校に勤務しています。本校は学生数約650人が在籍している総合専門学校で、うち、約100名が留学生です。入学時の日本語レベルはN3の留学生が多く、卒業後はほぼ全員が日本での就職を目指しています。
担任をしている国際IT・CAD科では、製造業で働く技能人材の育成を行っており、製図、CAD、NCプログラミングなどの専門科目を学びながら、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格取得を目指しています。私は日本語科目だけでなく、IT系授業、就職指導、生活指導なども担当しています。

専門学校留学生に対してどのような日本語教育を行っていますか?
大きく3つに分かれます。1つ目は、専門科目に関連した日本語教育です。製造業で必要とされる語彙や表現、報告書の書き方などを学びます。AOTS教師研修で紹介された「ゲンバの日本語 応用編」も使用しており、特に動画教材は現場のイメージをつかむのに役立っています。
2つ目は、ビジネス日本語教育です。職場で求められるコミュニケーションスキルを育成するため、ビジネスメールの書き方や電話対応など、実務に直結する内容を指導しています。
そして3つ目は、日本語能力のブラッシュアップです。一般的な日本語教材を用いて、語彙や文法の強化を図るほか、JLPT対策も行います。
専門学校卒の外国人社員に対して、企業からはどんな要望がありますか?
まず、技能実習生とは異なる長期的な雇用を前提としたキャリア形成が期待されていると感じます。社員として継続的に働き、企業の中核を担う人材として成長してほしいという思いがあります。また、日本語力や生活力を活かして、他の外国人アルバイトや技能実習生、特定技能人材のサポート役としての活躍、さらには、海外拠点との橋渡し役として、現地への技術指導や来日する外国人のアテンド、会議での通訳など、国際業務に貢献することも望まれています。
外国人材採用に対し、企業側の不安を感じることはありますか?
はい。企業の方とお話しさせていただくと、企業側もさまざまな不安を抱えていらっしゃると感じますし、実際に相談されることもあります。最も多いのは、在留資格取得や雇用手続きに関する知識が乏しく、何から始めればよいかわからないという声です。また、過去に聞いたトラブル事例や、文化・生活習慣の違いによる摩擦を懸念する企業も少なくありません。人事担当者が前向きであっても、現場の社員との関係構築に不安を感じているケースもあります。例えば、コミュニケーションがうまく取れるか、職場のルールを守れるか、など、日常業務に直結する部分での心配が多く見られます。
現場で直面する課題やトラブルにはどのようなものがありますか?
専門学校で学ぶ留学生の多くは、基礎学力や学習習慣が不足しており、専門科目の理解に苦労しています。また、日本にいながら母国語のコンテンツに囲まれ、母国のコミュニティ内で生活しているため、日本社会への適応が進みにくい傾向があります。
就業後に実際に起きたトラブルとしては、入社日直後の帰国希望、業務中の突然の宗教行為などがありました。これらは文化的背景や認識の違いによるもので、事前の指導と企業との調整が不可欠です。
就労を目指す留学生の育成で心掛けていることは?
特に重要だと感じるのは、日本語を学ぶ目的を明確にし、学習者に伝え続けるということです。留学生はテストの結果に一喜一憂しがちですが、彼らが日本語を学ぶ目的は、日本社会の一員として生きていくスキルを身につけることです。ときに学習者に寄り添いすぎてしまうこともありますが、一つ一つの言動が社会ではどう捉えられるのか、学校生活をとおして、繰り返し伝えています。そのために、教師自身が日本文化の体現者となるようにも心掛けています。例えば、プリントを両手で渡す、片付けを丁寧に行うなど、日常の所作にも気を配っています。また、企業ニーズに合った教育を実践するため、企業との連携も大切にし、企業側の要望や課題を把握するようにしています。
今後の展望について教えてください。
日本は今、国や民族、文化的背景など、異なる人々が互いに違いを認め合い、理解し、共に社会を築いていく多文化共生の時代を迎えており、外国人も地域社会の一員です。専門学校の留学生は、企業からの期待も大きく、日本の労働力を支える力になります。語学力だけでなく、文化理解や職場適応力を育てることが、日本語教師の重要な役割だと感じています。今後も、学習者が日本社会で長期的に活躍できる環境づくりを支えていきたいと考えています。
