松本みちこさん/2024年度修了者

介護職員向け日本語研修での試行錯誤と実践

外国人介護職員への日本語教育は、従来の留学生向け教育とは異なる視点とアプローチが求められます。2024年度AOTS教師研修を修了された松本みちこさんに、介護現場での日本語教育の実践と課題、そして今後の展望について伺いました。

これまでのご経歴と現在の活動について教えてください。

私はオーストラリアの大学院在学中に日本語教育を始め、帰国後約10年間、日本語教師として働きました。その後教育機関で事務職も経験しましたが、2年半前に再び教育現場に戻り、現在、大学で非常勤講師を務めるとともに、外国人介護職員を対象とした研修も担当しています。現在は、介護職員向けの研修のほうが活動の中心となっています。

介護職員向けの研修では、主に「介護現場で使う日本語」と「国家試験対策の日本語」の2種類の研修を担当しています。

介護現場で使う日本語研修では、どのような取り組みをされていますか?

介護現場で使う日本語力の向上を目的とした研修では、在留資格「介護」や特定技能、身分に基づく在留資格を持つ方々が対象です。施設様のご依頼は、「一般的な日本語を教えてほしい」「月1回90分×4グループ」「受講者のレベル差がある」「教材支給は難しい」といったものでした。しかし、何をどのように教えればよいのか、私は頭を抱えました。そこで、折にふれて施設の方々にお話を伺ううちに、「独り立ちしてほしい」「記録が読めて書けたらとても助かる」「夜勤時の救急対応ができることが最終目標」といった具体的な要望が見えてきました。その要望を受けて私が設定した目標は「語彙力の向上」と「業務で使用するフォームが読めるようになること」でした。施設様から語彙リストや業務用フォームを提供していただき、それをもとに教材や問題を自作しています。介護現場の経験がない中での試行錯誤ですが、市販教材を参考にしながら、現場に即した内容になるよう心掛けています。

現場で感じた課題について教えてください。

まず、目標と教育内容の設定が非常に難しいと感じました。施設のご担当者様は日本語教育の専門家ではなく、私自身は介護の専門家ではないため、双方の理解をすり合わせる必要がありました。

また、受講者の背景が多様であることも大きな課題です。既習事項や受け入れ制度が異なるため、レベル判定の方法にも工夫が求められます。さらに、フリーランスとして働いている立場からは、費用対効果をどう示すかという点も悩みの種です。私は自作のテストで点数を出し、成果を数値化するようにしています。

EPA候補者向けの国家試験対策で試行錯誤した経験を教えてください。

私が教えているフィリピンのEPA候補者は、母国で半年、日本で半年の研修を経て施設に配属されます。JICWELS(公益社団法人国際厚生事業団)が学習スケジュールを管理しており、1年目は漢字・語彙中心、2〜3年目は国家試験対策が中心です。

国家試験の問題を見ると、「専門知識」「語彙」「問題文・選択肢を読み解く力」が必要だということがわかります。私は留学生向けの教育経験が長かったため、最初は動詞や形容詞の活用練習などを行ったのですが、全然時間が足りず、うまくいきませんでした。そこで、授業で何を教えるかだけでなく、何を授業で教え何を自宅学習にするか、どうすれば自宅学習がしやすいのかを考えるようにしました。また、「国家試験、大変だよね」と思いすぎるのではなく、「どうすれば合格に近づけるのか」という視点に切り替えることが重要だと気づきました。

試行錯誤の結果、うまくいったことはありますか?

カードを使った語彙学習や、繰り返し学習、視覚的にわかりやすい教材の工夫などを取り入れたことはよかったと思います。特に、視覚的な要素は理解を助けるうえで非常に効果的でした。

また、留学生と就労者では教え方が大きく異なることを実感しました。就労者に教えるには、これまでの教育観やビリーフを一度リセットする必要があることにも気づきました。

AOTS研修で得られたことは何ですか?

外国人受け入れ制度などの情報、無料の教材、指導方法、コースデザインの考え方など、多岐にわたる内容が学べました。特に、「企業研修」という視点で日本語教育を実践するヒントを得られたことはよかったと思います。留学生を対象とした日本語教育においては、学習者は「学生」ですが、就労者を対象とした場合、「受講者様」なんですよね。こうした視点の違いは、就労者への日本語教育を考えるうえで、重要なポイントだと感じています。「企業に伝わる報告書の書き方」の講義では、現在の仕事にも役立つ実践的な知識を得ることができました。

さらに、研修内容だけでなく、他の受講者とのネットワーキングも非常に有意義でした。さまざまな経験を持つ方々との意見交換から、多くの気づきや情報を得ることができ、研修後も交流を続けています。

今後の展望について教えてください。

就労者に対する日本語教育のニーズは今後ますます高まると感じています。フリーランスの日本語教師として、どこで誰に何を教えたいのか、自分に何ができるのかを広い視野で考えていきたいと思っています。