経営者インタビュー

English

『“従業員一人一人が内部顧客である”という経営哲学の実践』 ~ベトナムの電機部品の製造・供給会社役員に聞く

2016年10月24日(月)16:00

(Vietnam/ベトナム)

 

AP Electrical Equipment社
Ms. Bui Thi Thanh Phuong (Vice Director)
Vietnam

 

HIDAが提供する研修プログラムには、新興国を含む海外諸国から多くのビジネスパーソンが参加しています。対象参加者の職位は研修プログラムによって異なりますが、経営者層に向けたプログラムも提供しています。
 
今回、ベトナムで電機部品の製造・供給を手がける企業を営む参加者にお話しをうかがいました。

 

 

-まず初めに、御社の会社概要についてご紹介ください。

 

2010年7月に設立されたAP Electrical Equipment Co., Ltd.(以下、AP社)はホーチミン市にあり、現在33名の従業員がいます。AP社は、大建造物、工場、火力発電所を対象とした電機(M&E)の部品およびコンポーネントの製造供給を専門としています。例として、米国規格(UL 797/1242)、英国規格(BS4568)や日本規格(JIS C 8305)に準拠した鋼製電線管および鋼製管継手、スイッチボックス、中継ボックス、配管支持装置、ユニストラット/Cチャンネルおよびビームクランプなどがあります。

 
-会社を経営していく上で、どのような事を特に大切にされていますか。理念や方針など、大切にしていることを教えて下さい。
 

当社は「従業員一人一人が内部顧客である」を経営理念としており、これはまさしく社の要です。この考え方に基づけば、顧客のいかなる要求をも満たすよう対処したいなら、会社はまず従業員を満足させるよう対処しなければなりません。すなわち、快適な労働環境を提供し、彼らが仕事上困難を抱えているならそれに関心を寄せ、円滑に解決されるよう支援し、学びと向上の機会を与え、仕事の仕方を刷新するよう奨励して成功へと導き、昇進の機会を獲得させ、優れた結果を出したら報奨金を与え、会社全体としての目標を達成するには彼らの果たす役割が重要であるということを広く認識させる、などが挙げられます。従業員は一旦仕事に満足を覚えると非常に熱心に仕事に取り組むようになり、たとえ相手が要求を満たすのが難しい顧客であってもそれに応えようと進んで任務を果たすようになるのです。

 
-自社事業を更に発展・成長して行く上で、成長の妨げとなっている課題はありますか?またその“課題”に対し、どのような手を打つべきとお考えですか?
 

ベトナムは2016年にASEAN経済共同体に加盟し、おそらく2018年には環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が発効します。これは当社も含めて、概してベトナムの企業はすべて、特に生産、資本および管理能力の面で他のASEAN加盟国やTPP加盟国との競争においても難局に直面することを意味しています。

上記の課題を解決するため、当社では現在以下のような弱点克服に最善を尽くしています。

製品:当社は2017年初めに、これまでより大規模な工場を新たに建設する予定です。そして、より最近の製造機械をいくつか購入し、一部の下請け企業には当社工場での製造に携わるように依頼する予定です。そうすることで製品設計と共に品質のチェックもでき、顧客の要望にすべて合致しているかどうか確認することが可能になります。

顧客:売上100%のうち80%を生み出しているのは現在の顧客の20%であるという80対20の法則は、誰もが知るところです。当社はこれが重要であると認識しているので、終始顧客に注意を払い、顧客向けの付加価値製品を改善するよう努めています。注文受け付け時はどの製品の価格が顧客のプロジェクトにとって最適なのかを顧客と協議し、製品の国際規格関連の書類はすべて提供するようにしています。

管理能力:2014年から経営陣のメンバーは全員、多大な時間をかけて日本やドイツでの経営管理コースに参加しています。これらのコースで我々は、管理能力を大いに向上させてきました。例えば2015年から2020年までの経営戦略の構築、企業理念の樹立および従業員とのすべての問題の共有等を行ってきました。そうすることで、従業員がより理解を深め、会社の目標のために仕事に最善を尽くすように彼らを促す、という意味で役立っています。

 

-現在の海外ビジネス展開状況を教えてください。

 

世界経済の状況については、成長は緩慢ですが、当社はそれほど影響を受けていません。当社が焦点を当てて注力しているのはベトナム国内全土とカンボジア市場です。現在、ベトナムやカンボジアにおいて、かなり大規模な建物建設入札プロジェクトがあります。プロジェクトを受注し次第、製造していく予定です。
 
ベトナムにおいて当社は、日本、韓国、中国の契約業者と多くの取引関係を有しています。中でもとりわけ日本の契約業者に対しては、できる限り最善を尽くして貢献することに焦点を当てています。なぜなら日本の企業はすべて、プロジェクトのための当社製品へのサポートや発注について決して怠らず、常に支払期日を遵守してくれるからです。当社がいつも高品質を維持し、納期を守り、製品仕様の要望を満たすならば、たとえ当社製品の価格が競合他社より少し高くても、日本企業は常に当社の顧客でいてくれると考えています。

 

-貴社ビジネスが属する、自国におけるマーケットの状況について教えてください。

 

ベトナムでは、市場に関するほとんどすべての情報は不透明です。よって、会社が競合他社の中でどのような位置にいるのかを知ることは困難です。情報が不正確なため、ベトナム市場に対し適切な経営戦略を立てていくのは難しいのです。2015年末、当社は来る新年に向けての短期経営戦略を、そして今後約5~10年間の長期経営戦略を打ち立てました。これにより当社カスタマーサービスのスタッフは、入札開始前に、顧客のプロジェクトの仕様に変更があるか否かを調査するため南から北へと全プロジェクトを訪問する必要が出てきました。それから、当社の経営戦略がいかなる変更にも合わせていけると確信できるように、戦略をチェックし修正していきます。
 
海外企業との競合において当社は、下記のような重大な問題に直面しています。

  • 特定の国々の製品価格の中には、ベトナム製のものより安いものがあります。
  • 当該国からベトナムへの輸送費はベトナム国内の南部から北部までの費用より安いです。これは我々の手には負えないいくつかの事情によります。
  • 当該国企業は当社に比べてより新しい機械を使用しているため、おそらく製品の品質がベトナムのものより優れていると思われます。
  • ベトナムの製品に比べて、より人目を引くパッケージデのザインがなされています。

-日本を含め、他国と自国における商慣習には違いがあると思います。自国での働き方に関する考え方、業務文化、国民性など、他国との際立った違いがあればご紹介ください。

 

第一に、ベトナムの事業環境は様式や規格の面で混合した環境であるため、規格リストは単一ではありません。例えば、ベトナムの多くのプロジェクトは米国規格に準拠する電機製品向けに策定されていますが、英国または日本の規格を要するプロジェクトもあります。したがって、どの規格に準拠するどの製品をより製造するべきか、見極めるのは困難です。
 
第二に、どの経済分野の情報も正確ではないため、ベトナム市場における自社の正確な位置を認識し、またそれに付随した経営戦略の立て方において、会社に大きな影響を及ぼしています。
 
第三に、顧客は常に手ごろな価格で最高品質の製品を求めますが、この2つの要求の間での歩み寄りはありません。仮にこちらが製品の取引価格を高く見積もっても、顧客はなぜ他社の価格より高いかなど気に留めないのです。まるで他社製品との間の品質の違いには関心がないかのようです。
 
第四に、ベトナムの多くのプロジェクトにおいては、予めスケジュールを細かく知らされません。仮に顧客が注文確認書を送るとすると、それは1~2日以内に全発注品を現地で受け取る必要があるということを意味しているのです。このような理由から当社は常に倉庫に多くの製品在庫を抱えておく必要があり、全品目をストックしておくのに多額の費用がかかってしまうのが現状です。

 

-自社人材を育成していく上で、どのような点に注意を払って取り組んでいますか?

 

2014年より当社経営陣から2名が日本でのビジネスコースに参加し、経営戦略および活動において多くの点を改革しましたが、従業員は我々の要求基準を十分満たせずにいます。ベトナムでは従業員についての課題が山積しています。
 
第一に、従業員がベトナムの大学で学業を修めると、学問的知識は教授されても現実に即した実践的知識は与えられない場合がほとんどです。したがって、彼らが当社で働き始めたら訓練に多くの時間を割かねばなりません。
 
第二に、ベトナム人従業員に関していうと、彼らは個々に独力で働いた場合は、職務上良好な結果を残し、かつ柔軟に問題を解決していくかもしれません。ところが社内でチームとして働くと上手く機能せず、良好な結果どころか何も遂行できないこともあります。
 
第三に、ベトナム人従業員の多くは目下携わっている仕事に対して忠実ではなく、資質改善のために学ぶことに対しては無精な面があるようです。
 
従業員の働き方が改善され、近い将来、急速に変化していく経営戦略に適応できるように、当社では2015年から従業員の資質改善、共同作業およびソフトスキルのためのプランを、以下のとおり多数作成して実践しています。
 

  • 製品の特徴や最適な価格等についての顧客との協議の仕方の教育など、製品知識に関する訓練の多数企画。
  • 円滑な問題解決、支払方法・納期・荷渡地に関する交渉等のためのソフトスキルの訓練。
  • 仕事および生活面での困難や問題を共有するため、毎週土曜日に懇親会を行う等のチーム育成活動の企画。
  • 仕事上の困難に耳を傾け、解決するための会社ミーティングの企画。また、毎月従業員の誕生祝いを開催し、自分が他者より恵まれていることに気付かせ、人生や労働の価値を理解できるようになるための慈善活動の多数企画。
  • 円滑かつ快適な働き方や、毎日の始まりに行うTo-Doリスト作成方法の伝授。心身のリフレッシュを図るための、毎日午前10時と午後3時に行う5分ずつの運動。
  • 知識の向上に向け、VJCC(ベトナム日本人材協力センター)でのカスタマーサービス、販売、「5S」(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)、「PDCA」(Plan→Do→Check→Action)、「報・連・相」に関する多々あるコースの探索。

 

-最後に、日本や日本企業についてどのような印象をお持ちでしょうか。日本に来て驚いた事、感動したこと等ありましたら教えてください。

 

気質、考え方や仕事への取り組み方の観点で偉人といえる松下幸之助氏の話を聞き、私は日本と日本企業に深く感銘を受けました。松下幸之助氏は、概して日本人や日本企業の気質・特徴を、とりわけ以下の点で表していると思えます。
 

  • たとえどのような難しい状況であっても、直面する課題を克服すべく、日本人はいつでも粘り強く、また忍耐強く対応し、さらに強く発展していくために最善を尽くしています。
  • 彼らは最高の品質を備えた最高な製品を作るために、いつも燃えるような熱意と気持ち(ハート)をもって業務に取り組んでいます。
  • お客様に最高のサービス・品質を提供するために、彼らは自社製品を今の状態からさらに良く、より快適なものにしようと、いつも努力しています。
  • “輝かしい明日に向かって今日を築いていく”ことに向けて、彼らはいつも従業員のためになる多くのことを作り出しています。
  • 他人と交渉するときにお互いがウィン・ウィンとなることを目指して、彼らは決して譲歩せずに、双方にとっての共通点をいつも探っています。
  • ビジネスの道には絶えず困難が生じてきますが、彼らは決して仕事をとめるわけではなく、常に向上、発展を目指しています。

 
この場をお借りして皆に、松下幸之助氏の有名な言葉を共有したいと思います。

“自分には自分に与えられた道がある。広いときもあれば狭いときもある。上りもあれば下りもある。思案にこまるときもある。しかし勇気の伴った根気と強い信念で、正しい道が開かれてくる。”
 
そして私は松下氏の言葉が、自身や周りの社会のためにビジネスを行っていきたい全ての人々にとって、動機付けの原動力となることを期待しています。

ご協力ありがとうございました。