国際シンポジウム イギリス・フランスの労働契約と紛争解決制度―日本との比較―

実施報告

2019年10月31日(木)ベルサール神田(東京都千代田区)において、国際シンポジウム「イギリス・フランスの労働契約と紛争解決制度―日本との比較―」を開催しました。

日本の雇用流動性は諸外国と比べて低いといわれ、様々な意見があり議論にもなっています。本シンポジウムでは、高い雇用の流動性が維持され、雇用・解雇法制が整備されている先進諸外国(イギリス・フランス)における労働契約の特徴と労働契約を変更・終了する場合の制度及び解雇時の紛争解決方法を中心に、イギリス・フランス両国の専門家からそれぞれの労働契約法制についてご紹介いただきました。イギリス・フランス・日本のそれぞれの労働慣行と労働法制の違いとその背景にある考え方を確認し、日本にこれらの国の制度を導入するべきか、導入する場合の問題点などを検討しました。当日は大勢の方にご参加いただき、盛況のうちに終了いたしました。

第一部 基調講演及び解説

1.基調講演:各国の労働契約と紛争解決の実態

・Pascal Lokiec 氏(フランス) パリ第1大学   教授(労働法)
・David Cabrelli 氏(イギリス)   エジンバラ大学 教授(労働法)

2.解説:各国と日本の労働契約の考え方と変更・終了・紛争解決方法の相違点

・細川 良 氏(フランス) 青山学院大学 教授(法学部  法学科)
・小宮 文人 氏(イギリス)専修大学 法学研究所客員所員/元専修大学法科大学院・法学部教授
 

「基調講演及び解説」において、Cabrelli氏とLokiec氏よりそれぞれイギリス・フランスの労働契約と紛争解決の実態について解説を行っていただき、労働契約を変更する場合に注意するべき点や、両国で一般的である解雇時の金銭解決制度について理解を深めました。その後、小宮氏と細川氏に両国と日本の制度の違いを中心に解説いただきました。日本以外の国では紛争解決とは解雇が不公正解雇であるかどうかや解雇時の金銭解決補償の額が適切であったかどうかを争うものが一般的で、日本のように会社に在籍しながらパワハラ・セクハラ等について会社へ是正を求めたり、解雇を無効として労働者の地位の回復を求めたりといったものではないこと、金銭解決が実質的に唯一の救済手段になることから、それが適用される条件や金額の計算方法が事細かに決まっており、紛争解決が効率的に処理されていく状況であることが確認されました。

加えて、両国で話題となっているUberを代表とするプラットフォーム型ビジネスについて、Uberドライバー等の労働者性判断の難しさから両国では様々な議論があり、その議論は今後日本でも参考になるだろうというという話題がありました。この点はパネルディスカッションでも議論されました。

 

※当日の詳細な記録はこちらからダウンロードできます。

講師プロフィール

石田  眞  氏

早稲田大学名誉教授。専門は労働法。博士(法学)

【略歴】
1977 早稲田大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学
1977 東京大学社会科学研究所助手
1982 名古屋大学法学部助教授
1985 名古屋大学法学部教授
2001 早稲田大学法学部教授
2004 早稲田大学 大学院法務研究科教授
2010~2014 同法務研究科にて研究科長
2017 早稲田リーガルコモンズ法律事務所顧問

著書・研究

『ロースクール演習労働法』(2010年)共著 
『労働六法 2015』(2015年)共著 
『近代雇用契約法の形成 イギリス雇用契約法史研究』(1994年) 
『ILO「労働は商品ではない」原則の意味するもの』(2011年) 
『雇用危機と労働者住宅』季刊労働法228号(2010年) 
その他多数

Prof. David Cabrelli  氏

エジンバラ大学 教授(労働法) 
雇用、労働、企業法を専門としている。

 

【略歴】
1992 ダンディー大学(University of Dundee) 法学部卒業
1997から2003 ソリシター(事務弁護士)として主に雇用及び企業法分野で活躍
2003 ダンディー大学講師(商法及び企業法)
2007年より現職

著書

The Contract of Employment (OUP in 2016)(共著)
Employment Law (Law Express: 2018)
他著書多数

Prof.  Pascal Lokiec  氏

パリ第1大学 教授(労働法)/フランス労働法学会会長

フランスの労働法研究の第一人者として活躍している。労働・雇用関連法を専門とし、多くの論文を執筆している。

 

【その他の主要な役職】
Director of the Master 2 of Social Law, University Paris 1
Co-Director of the department of social law of the IRJS, University Paris I

著書

・Droit du travail, PUF, collection « Thémis », 2ème édition, septembre 2019
・Une autre voie est possible, avec E. Heyer et D. Méda, Flammarion, 2018
・Il faut sauver le droit du travail, éditions Odile Jacob, 2015
・Contrat et pouvoir, Essai sur les transformations du droit privé des rapports contractuels, LGDJ, collection « Bibliothèque de droit privé », tome 408, 2004 
・Droits fondamentaux et droit social, co-direction avec M. Antoine Lyon-Caen, Dalloz, collection Thèmes et Commentaires, 2005

小宮  文人  氏

専修大学 法学研究所客員所員/元専修大学法科大学院・法学部教授

専門は労働法、社会保障法、労使関係、社会学。日本、英国の雇用契約法を研究。

 

【略歴】
1981    北海学園大学法学部専任講師、労働法
1983    北海学園大学法学部助教授、労働法
1990    北海学園大学法学部教授、労働法
2005    同大学大学院法学研究科教授、労働法
2011    専修大学法科大学院教授、労働法
2019    定年退職

 

【学歴】

1997    ロンドン大学LSE大学院法学研究科博士課程、労働法

主要著書

『英米解雇法制の研究』(信山社、1992年)
『雇用終了の法理』(信山社、2010年) 他多数

細川  良  氏

青山学院大学 教授(法学部  法学科)

【略歴】
2011年 早稲田大学大学院法学研究科博士課程単位取得満期退学
大東文化大学講師、武蔵大学講師等を経て2012年から独立行政法人労働政策研究・研修機構で研究に従事。2019年4月から現職。

 

専門分野:労働法。

フランスの労使関係・労働協約システムの研究、フランスの解雇紛争にかかるシステムや同一労働同一賃金原則についての研究、日本における限定正社員の解雇事案の分析等を行っている。

近著

『現代先進諸国の労働協約システム(フランス)』
『解雇ルールと紛争解決-10カ国の国際比較』(共著/菅野和夫・荒木尚志編)など

第二部 パネルディスカッション

第二部パネルディスカッションでは事前に聴衆の皆様より頂戴した討議事項・ご質問に沿って進めました。主なトピックをご紹介いたします。

・解雇と解雇の救済について、その背景や論理の違い、及び両国での現状と日本への導入の可否。
 本シンポジウムは解雇時の金銭解決の日本への導入の可否について結論を出すものではありませんでしたが、いくつかの意見が出されました。
 -日本でも実態として金銭解決が相当程度行われており、導入することで明確化するというメリットはある。
 -解雇の金銭解決制度を導入しても、解雇そのものに対する補償金額が固定化されるだけで、解雇時に行われる不公正・非行に対する補償は別のため、補償金額総額の予想は依然として難しい。

・ギグエコノミー、プラットフォームエコノミーに従事する従業員を被雇用者として認めるか。両国で起こっている議論と今後の見通しについて。

・イギリスのBrexit、マクロンの労働改革といった両国固有の事情が労働に与える影響について。

 

※当日の詳細な記録はこちらからダウンロードできます。

 

 

モデレーター

石田  眞  氏

パネリスト 

Prof. Pascal Lokiec
Prof. David Cabrelli
細川  良  氏
小宮  文人  氏

開催概要

日時

2019年10月31日(木)13:00~17:30

会場

ベルサール神田  3階  Room 3 & 4
(千代田区神田美土代町7  住友不動産神田ビル3F)

テーマ

イギリス・フランスの労働契約と紛争解決制度―日本との比較―

定員

80名

言語

日英仏同時通訳

参加費

無料

 

※当シンポジウム開催時のリーフレットはこちらからダウンロードできます。