ドイツの「労働4.0」と日本の労働の未来

実施報告

2018年11月29日(木)ベルサール東京日本橋(東京都中央区)において、国際シンポジウム~「ドイツの「労働4.0」と日本の労働の未来」を開催しました。

急速に発展するデジタルテクノロジーがもたらす産業構造の変化(第四次産業革命(Industry 4.0))は労働・雇用分野に対して大きな影響を及ぼしています。本シンポジウムでは政労使で議論を重ねているドイツの白書「労働4.0」を紹介するとともに、日本がドイツの事例から学ぶべきことや日本の雇用と労働の未来について議論しました。

経験豊富な講師・パネリストをお迎えし、理論と実務の双方の視点からお話いただきながら、ドイツと日本の比較や両国が共通して抱える課題、解決策等についても議論していただきました。当日は企業、産業団体の方々などを中心に99名にご参加いただき、盛況のうちに終了いたしました。

第一部 基調講演

第一部では、テーマを二つ設定し、一つ目のテーマであるドイツの「労働4.0」と日本の労働の未来について、高橋賢司氏(立正大学 法学部准教授)、Dr. Martin Pohl(在日本ドイツ連邦共和国大使館 厚生労働参事官)、山本陽大氏(独立行政法人 労働政策研究・研修機構 労使関係部門 副主任研究員)の3名にご講演いただきました。さらに二つ目のテーマである企業における労働4.0への対応については、実務的な視点から山藤康夫氏(日鉄住金総研株式会社 客員研究主幹)とDr. Wolfgang Glaser(ダイムラー/三菱ふそうトラック・バス株式会社 人事本部 本部長)からご講演いただきました。

講演内容

講演の主な内容は以下の通りです。

  • 「労働4.0」とはなにか。「インダストリー4.0」との関係と議論の発展の歴史
  • ドイツ、アメリカ、日本の仕事に対するアプローチの違い
  • 情報通信に技術(ICT)が可能にした、現実世界と情報を高度に結びつけるサイバーフィジカルシステム
  • 「労働4.0」の内容の紹介
    柔軟性のある労働時間の設定
    フリーランス・クラウドワーカーの労働条件・待遇の向上
    若年層、女性の労働環境の向上
    労働安全衛生に関して配慮する事項。特にメンタル面において
    新しい労使協議の形と、デジタル時代の労働者保護
    デジタル時代の労働者一人ひとりのエンプロイアビリティ(雇用され得る能力、雇用適正)の向上
    ソーシャルパートナーシップの重要性
  •  AI、情報通信技術(ICT)の導入による社会、特に労働分野において予測される変化への日本の労働法及び労働政策上の対応。ドイツとの比較。
  •  AI、ICTの導入で将来予想される雇用の変化。
  • 職業能力訓練と失業対策について、日本の現状と今後求められる政策。
  • ものづくり分野とIT分野の融合と、その2分野の人材の交流。そしてそれを統括する管理人材の重要性。
  • ICTを活用して生産性を向上させた実例、ICTがもたらした業務内容の変革の実例
  • ドイツの「労働時間口座」の紹介

高橋賢司氏(立正大学 法学部准教授)

  • 日本のIoTやAIが与える雇用の影響
  • 雇用政策~日本の職業訓練
  • 労働時間政策
  • 監視に対する国家的な規制
  • クラウドワーク
  • 集団的な参加
  • 社会国家の危機とベイシックインカム

Dr. Martin Pohl(在日本ドイツ連邦共和国大使館 厚生労働参事官)

  • 労働4.0対話プロセス
  • 原動力と傾向
  • 白書の課題と解決策
  • 仕事をあたらしくイメージする

山本陽大氏(独立行政法人 労働政策研究・研修機構 労使関係部門 副主任研究員)

  • Society 5.0
  • 雇用・労働政策上の動向
  • 雇用社会をめぐる変化予測
  • 重点政策分野
  • 各種政策

山藤康夫氏(日鉄住金総研株式会社 客員研究主幹)

  • マクロ環境
  • 進行するパラダイムシフト
  • 日本の中小企業
  • 新時代の人材像

Dr.Wolfgang Glaser(ダイムラー/三菱ふそうトラック・バス株式会社 人事本部 本部長)

  • ダイムラー/三菱ふそうトラック・バス株式会社における対応

講師プロフィール

Dr. Martin Pohl(在日本ドイツ連邦共和国大使館 厚生労働参事官)

職歴
2018年1月より現在に至る ドイツ外務省 駐日ドイツ連邦共和国大使館(東京)にて勤務
参事官(労働、保険 / 広報業務担当)
2017年2月より2018年1月 Staufen AG社シニアコンサルタント
(コンサルタント数300面、15カ国にて運営)
2014年7月より現在に至る Harmonic Drive Systems KK社にて経営諮問委員会委員
(東京証券取引所上場企業)
2010年2月より2017年1月 筑波大学大学院人文社会科学研究科国際日本研究専攻 経営学準教授
2006年2月より2010年1月 ドイツ外務省 駐日ドイツ連邦共和国大使館(東京)にて勤務
参事官(労働、保険 / 広報業務担当)
2003年4月より2006年7月 Lafarge-Roofing社にて労働者経営委員会会員
(従業員数12,000名 アメリカ合衆国/日本を含む38カ国にて業務)
1999年9月より2006年1月 建設、環境に関するドイツ全国労働組合にて勤務
 (従業員数800名 会員数500,000名)全国委員会業務経営の専門
1999年9月より2000年3月 Esslingen大学(国立大学)社会経営のための応用科学 経営講義担当
1996年11月より1999年9月 Deutsche Eisenbahnコンサルティング会社勤務
DeutscheBahn社(ドイツ国営鉄道)とDeutsche銀行(従業員数1,100名、
80カ国にて運営、所在地フランクフルト) 両社の経営コンサルタント業務と管理
1990年10月より1992年5月 BSVコンサルティング社 所在地ケムニック、旧東ドイツ マーケティングと
人事部門のトレーナー 計画経済から市場経済への転換処理

 

学歴
1990年2月より1996年5月 マンハイム大学(ドイツ)経営学の博士論文
“ドイツと英国における民間企業による資金援助調査”英訳 評価 : A(優等)
1991年1月より1991年6月 Michel de Montaigne大学 ボルドーIII地区 (フランス)経営学修士
1984年5月より1989年9月 マンハイム大学 (ドイツ)経営管理学学士 マーケティングと産業経営専攻

 

山本陽大氏(独立行政法人労働政策研究・研修機構 労使関係部門 副主任研究員(労働法専攻))

2009年3月同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了、その後、同大学院法学研究科博士後期課程を経て、2012年4月より現職。また、國士舘大学でも教鞭を執る。

専門分野:労働法

特に、解雇法制、集団的労使関係法制、ドイツ労働法、第四次産業革命と労働法

論文等

「第四次産業革命による雇用社会の変化と労働法政策上の課題―ドイツにおける“労働4.0”をめぐる議論から日本は何を学ぶべきか?」JILPT Discussion Paper 18-02

「ドイツー第三次メルケル政権下における集団的労使関係法政策」『現代先進諸国の労使関係システム』(労働政策研究・研修機構、2017年)33-80頁

Dr. Wolfgang Glaser(ダイムラー/三菱ふそうトラック・バス株式会社 人事本部 本部長)

1998年にインターナショナル マネージメント アソシエイトとしてダイムラー社に入社し、人事部員として数多くの大規模且つ複雑なプロジェクトに従事。2006年には三菱ふそうトラック・バス株式会社初となる外国籍の部長として日本に約5年間赴任し、ダイムラー社の人事戦略や施策を日本に導入。その後、ダイムラー社に戻り2014年に再び来日。三菱ふそう人事本部人事企画部長として業務に従事し、2016年1月に、三菱ふそう 人事本部長に就任。Daimler Trucks AsiaのHR Office Headとしてアジア地域、ポルトガル、北米を統括。

山藤康夫 氏(日鉄住金総研株式会社 客員研究主幹)

専門分野「機械工業の技術系人材と国際競争力」

略歴
1974年 富士銀行(現、みずほ銀行)入行
1991年 同行系列の(株)富士総合研究所へ出向
2003年 (財)政策科学研究所に移籍 主席研究員
2008年 (株)日鉄技術情報センター(現、日鉄住金総研)に移籍
2015年 日鉄住金総研を退職、現在に至る
日本機械工業連合会 委託事業
平成29~31年度 「IoT・AI時代のものづくりと人の役割変化への対応調査研究」
平成26~28年度 「世界の製造業のパラダイムシフトへの対応調査研究」
平成23~25年度 「グローバル化に対応する生産技術者の確保・育成に関する調査研究」
平成23~25年度 「グローバル人材育成・教育に関する調査研究」
著作等

日経ものづくり 2016'1号 日本発スマートモノづくり 第四回 インダストリー4.0を支えるドイツの教育(前編)

日経ものづくり 2016'2号 日本発スマートモノづくり 第五回 インダストリー4.0を支えるドイツの教育(後編)

高橋 賢司 氏(立正大学 法学部法学科 准教授)

2003年 Eberhard Karls Universitaet Tuebingen Juristische Fakuelitaet (Faculty of law) 法学博士号取得
2003年 中央大学大学院 法学研究科博士後期課程 民事法専攻 博士課程単位取得満期退学
2003年より立正大学法学部にて教鞭を執り、2011年4月より現職。

労働法を専門とし、日本・ドイツ両国に関する論文を多数執筆。

主要著書・論文

論文 2017 年におけるドイツ労働者派遣法の改正 (単著) 2017/10
論文 EU法における労働時間法制 (単著) 2017/09
論文 デジタル化とAIの労働市場と労働法への影響 (単著) 2017/09
論文 ドイツにおけるIoTとAIをめぐる雇用政策 (単著) 2017/09
論文 ドイツ法における有期労働政策とその効果 (単著) 2017/09
著書 障害者雇用における合理的配慮 (編著) 2017/03
著書 労働法講義(教科書) 第二版(単著) 2018/7

 

第二部 パネルディスカッション

第二部では、高橋賢司氏(立正大学 法学部 准教授)からIoTとAIがもたらす日本的雇用の課題についてご講演頂いた後、参加者の方々から事前にいただいた質問にパネリストが答える形式でパネルディスカッションを実施しました。モデレーターに高橋賢司氏、パネリストにDr. Martin Pohl、山本陽大氏、Dr. Wolfgang Glaser、山藤康夫氏をお迎えしました。

主なトピック
  •  製造現場でのデジタルツール導入の具体例。スマート工場の紹介
  • 製造業以外でのAI・ICT導入の事例と今後の可能性
  • AI・ICT技術によって雇用が脅威にさらされる職種と、そこで働く方々の扱い。職種転換や教育の準備等
  • AI導入を目的とする企業が多いが、AIで何を実現したいかを考えることが重要であること
  • AI・ICT導入の生産性向上の効果
  • AIの限界。AIが出来ることの見極め
  • 熟練者の後任育成問題の解決策としてのICT導入は効果的
  • ドイツをはじめとした諸外国におけるデジタライゼーションの現状と各国政府の戦略。急成長が予想される発展途上国の今後の見通し。日本はどうするべきか
  • ドイツの教育・職業訓練制度、大学と企業・研究機関の関係で、日本にとって参考になるべき点はなにか
  • 日本・ドイツの賃金決定・評価制度の違い。日本はそれらを今後変えるべきか。またその場合はどのように変えるべきか。労働組合と使用者団体が担うべき役割
  • クラウドワーカーの自営業者としての側面と、労働者としての側面。ドイツの「労働者類似の者」の概念の紹介

これらトピックについて短い時間ではありましたが、パネリストの方々から様々な意見をいただきました。

モデレーター

高橋賢司氏(立正大学 法学部 准教授)

パネリスト 

Dr. Martin Pohl(在日本ドイツ連邦共和国大使館)
山本 陽大 氏(独立行政法人労働政策研究・研修機構)
Dr. Wolfgang Glaser(ダイムラー/三菱ふそうトラック・バス株式会社)
山藤 康夫 氏(日鉄住金総研株式会社))

開催概要

日時

2018年11月29日(木)13:00–17:30

会場

ベルサール東京日本橋 Room 10+11
(東京都中央区日本橋2-7-1 東京日本橋タワー)

テーマ

ドイツの「労働4.0」と日本の労働の未来

定員

80名

言語

日英同時通訳

参加費

無料