働き方改革に向けて~フランスの労働法改正と日・仏の労使関係の相違点~

実施報告

2017年10月31日(火)、ベルサール神田(東京都千代田区)において、国際シンポジウム「働き方改革に向けて フランスの労働法改正と日・仏労使関係の相違点」を開催しました。

フランスでは2016年および2017年に労働法が大幅に改正され世界的に注目を浴びています。今回はフランス労働法の第一人者であるパリ第1大学ソルボンヌ校の Jean-Emmanuel Ray 教授を日本にお招きし、労働法の改正の背景と趣旨、そして今後の労働事情の展望についてお話いただきました。

当日は学会、行政、産業団体、企業の方々など84名にご参加いただき、盛況のうちに終了しました。

第一部 基調講演 13:30~15:00

基調講演では、Jean-Emmanuel Ray 氏に「フランスの労働法改正と今後の労働事情展望」について、細川 良氏(独立行政法人労働政策研究・研修機構 労使関係部門 研究員)に「フランスと日本の労働事情・労使関係の相違点」についてお話しいただきました。

要旨

1982年に始まった労働法改革が今年ついに終着点をむかえた。かつては法が最低の労働条件を定め、産業別協約により労働者有利になる条件を追加することが出来るだけであったが、1982年のオールー法以降は従来存在した法律・産業別協約に加え、企業別協定(協約)によっても労働条件を設定することが可能になり、同一の産業内においても企業毎に異なる労働条件を設定することが可能になった。さらに2004年の法律改正により、一部の労働条件においては企業別協約によって産業別協約の適用除外が行えることになった。

実際にはこの制度はあまり活用されなかったものの、労働条件を企業別協約によって決めることの道筋が示された。2017年の法改正によって、ついに企業別協約が産業別協約に優先することが原則となった。企業は競争力維持のため、労働者との協約によって賃金、配置転換、労働時間について、いままでより柔軟に決定することが可能となり、また解雇に要するコストが低減された。労働者側からの反対はあるものの、この改正によりEUから対応が求められていた失業率・若年者雇用といった問題について解決が進むことが期待されている。

またこの労働法改革は、新時代の技術革新の登場とそれに伴う働き方の変化に対応することも念頭においている。インターネット技術により、知的労働に従事する者は労働法が想定するような「職場において決められた時間働く」といった働き方にとらわれず、様々な時間に様々な方法で仕事に従事することが可能になった。企業が労働時間と休憩時間を管理することはもはや不可能であり、「みなし労働時間制」の導入は労働法の限界を露呈するものであった。特に知的労働者にとって仕事とプライベートの区分が難しくなる中、労働者がインターネットから離れる事のできる「つながらない権利」をどう保障するのか、また情報技術により新しく出現するビジネスモデルにどう対応するかが、労働法にとっての今後の課題となる。

より詳細な当日の第1部の記録はこちらからダウンロードできます。

基調講演会場の様子

講師プロフィール

パリ第1大学 教授(労働法)Jean-Emmanuel Ray 氏

パリ政治学院(Sciences Po)卒、パリ第1大学(パンテオンソルボンヌ)でも学ぶ。

労働法専攻、とくに新技術がもたらす法問題に詳しい。

パリ政治学院、Mines Paris Techでも教鞭をとる。

独立行政法人労働政策研究・研修機構 労使関係部門 研究員 細川 良氏

2011年 早稲田大学大学院法学研究科博士課程単位取得満期退学。
大東文化大学講師、武蔵大学講師等を経て2012年より現職。

専門分野

労働法。近年は主にフランスの労使関係・労働協約システムの研究に従事しながら、フランスの解雇紛争にかかるシステムや同一労働同一賃金原則についての研究、日本における限定正社員の解雇事案の分析等を行っている。近著に、『現代先進諸国の労働協約システム(フランス)』、『解雇ルールと紛争解決-10カ国の国際比較』(共著/菅野和夫・荒木尚志編)など。

第二部 パネルディスカッション 15:15~16:30

パネルディスカッションでは参加された方々から事前にいただいた質問に、パネリストが答える形式で実施しました。

主なトピック
 
  • 今後もこの労働法改革はこのまま続いていくか
  • Uberに代表されるプラットフォームビジネスの雇用と労使関係について
  • グローバル企業のフランス支社における解雇規制について
  • 世代、業種、職種によって違う、働き方に対する意識の違いについて
  • 日本人とフランス人の働き方の違いについて

パネルディスカッション

より詳細な当日の第2部の記録はこちらからダウンロードできます。

これらトピックについて短い時間ではありましたが、パネリストの方々から様々な意見をいただきました。

モデレーター

細川 良氏(独立行政法人労働政策研究・研修機構 労使関係部門 研究員)

パネリスト 

Jean-Emmanuel Ray 氏(パリ第1大学教授(労働法))
鈴木宏昌氏(早稲田大学名誉教授)
Davy Le Doussal 氏(TMI総合法律事務所 外国法事務弁護士(フランス法)・パリ弁護士会所属弁護士)

パネリストプロフィール

早稲田大学名誉教授 鈴木宏昌氏

1964年 早稲田大学政治経済学部卒業
1969年 ルーアン大学(フランス)博士課程修了
1970年から1986年までILO本部(ジュネーブ)勤務
1986年から早稲田大学商学部助教授、そして教授

専門分野

労働経済。特に雇用、労働時間、労使関係の国際比較

 

TMI総合法律事務所 外国法事務弁護士(フランス法)・パリ弁護士会所属弁護士 Davy Le Doussal 氏

1997年 レンヌ大学法学部修士課程修了、ドイツのフリードリッヒ-アレクサンダーエアランゲン・ニュルンベルク大学 ヨーロッパ法エラスムス修士課程修了
2000年 レンヌ大学レンヌ・マネージメント学院日仏経営センター 日仏マネージメント・文化・モニタリング専攻DESS(高等専門養成課程)修了
2000年 ローラン・デュボワ外国法事務弁護士事務所勤務
2002年 パリ弁護士研修所入所資格(CRFPA)取得
2004年 弁護士適格証明(CAPA)取得
2005年 DS Avocats事務所勤務
2005年 パリ弁護士会登録
2008年 TMI総合法律事務所勤務
2008年 東京弁護士会外国法事務弁護士登録
2017年 カウンセル就任

 

開催概要

日時

2017年10月31日(火) 13:00~16:30

会場

ベルサール神田 3階 Room 3&4
(東京都千代田区神田美土代町7 住友不動産神田ビル2・3F)

テーマ

働き方改革に向けて~フランスの労働法改正と日・仏の労使関係の相違点~

対象者

日本の労働法や労働政策に係わる研究者、政府関係者、学生等
フランスへの進出を考える日本企業の人事労務管理者・海外事業担当者等

定員

80名

言語

日本語/フランス語 同時通訳

参加費

無料