経営者インタビュー

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『組織のためのみならず、社員や社会、そして我々自身にとっても多様性が重要』 ~タイの石鹸製造会社役員に聞く

2016年11月10日(木)14:27

(Thailand/タイ)

 

STS Consumer Products社
Ms. Arunee Sirichaovanichkarn (Business Development & Human Resource Director)
Thailand

 

HIDAが提供する研修プログラムには、新興国を含む海外諸国から多くのビジネスパーソンが参加しています。対象参加者の職位は研修プログラムによって異なりますが、経営者層に向けたプログラムも提供しています。

 

今回、タイで石鹸製造を営む参加者にお話しをうかがいました。

 

 

-まず初めに、御社の会社概要についてご紹介ください。

 

STS Consumer Products社は、石鹸製造のOEM(相手先ブランド製造)およびODM(相手先ブランドの製品設計・生産)ならびにプライベートブランド事業を行う企業で、1999年に設立されました。当社の月間生産能力は150~200トンで、従業員数は160名、バンコク市の南東およそ40キロメートルに位置しています。

 

当社の主要製品には、タイの伝統的なハーブ石鹸、自然派石鹸、リラクゼーション効果のあるスパ用石鹸、低温製法による手作りの石鹸、アロマ石鹸、化粧石鹸などが挙げられます。「ワンストップサービス」企業を自認する当社は、石鹸の処方から、マーケティングコンサルタント、パッケージデザイン、マーケットの絞り込みに至るまで、法令を遵守しながら事業を展開しています。さらに、当社の顧客が特定の法令を遵守しながら簡単かつ迅速に製品の取り扱いを始めることができるように、書類提供サービスも行っています。

 
-会社を経営していく上で、どのような事を特に大切にされていますか。理念や方針など、大切にしていることを教えて下さい。
 

STS Consumer Products社という社名の頭文字は、以下の通り、当社の中核を成すバリューを表しています。

 

S – 解決志向:
我々は顧客のパートナーとなり、顧客が最善の結果を得られるように、解決策や選択肢を提供します。当社のキー・コンピテンシーは柔軟性です。

 

T – 信頼性および倫理性:
我々は質の高い仕事を提供して信頼を構築します。当社の成功にとってカギとなるのは、誠実性および道義性です。

 

S – 奉仕の精神:
寛容さと積極的な意思を持って社内外の関係者に接し、顧客が満足できるよう細部にまで配慮し、結果についてフォローアップを行います。

 

C – 創造性および革新性:
熱意を持って自己啓発に取り組み、偏見にとらわれずに様々なアイディアを積み上げ、新しいことに果敢に取り組み、時代に後れを取ることなく適応し、絶えず自らを成長させます。

 

P –公益性:
常にアイディアを共有し、自らの行動が組織の他のチーム、地域、社会および環境など他者にどのような影響を与えるか、協力できるように常に配慮します。

 
-自社事業を更に発展・成長して行く上で、成長の妨げとなっている課題はありますか?またその“課題”に対し、どのような手を打つべきとお考えですか?
 

私の見解としては、利益率を上げる能力や販売能力が当社にとっての重要課題であると考えています。当社は常に顧客本位の製造企業として、顧客企業ごとに個別の製品を開発しています。かつて当社は、OEM注文のみに基づく石鹸製造を行っており、時間やコストが非常にかかっていました。当社のようなOEM企業にとって、利益率を上げるのは非常に困難なことです。

 

また当社のマーケティングチームは、販売担当というよりは、顧客サービス担当に近いものでした。彼らは製品開発における顧客・当社間の調整に忙殺されており、結果として、当社の製品やサービスを新規市場に参入させるための時間がほとんど取れていませんでした。

 

当社は利益率や販売量を上げるため、2016年に「コスモス&ハーモニー」という独自ブランドを立ち上げたばかりです。さらに、OEM顧客に対してもマーケティングコンサルタントを行えるよう、当社がブランドオーナーの役割を担いたいと考えています。

 

当社では現在、時間やコストの削減に向けて、様々なターゲット市場に合う製品基準およびプライベートブランド製品を開発しています。それにより、マーケティングチームでは製品の新規市場への参入アプローチについて考える時間が確保できるようになります。また当社の研究開発チームも、革新的な活動により専念できるようになります。

 

-現在の海外ビジネス展開状況を教えてください。

 

当社はハーブおよび自然派の石鹸に特化しているため、ナチュラル志向や健康志向のトレンドは当社にとって有利になると考えています。ナチュラル製品メーカーとして、当社が名乗りを上げるには良い機会です。

 

日本市場に関しては、当社は2014年に日本の代理店との取引を始めました。この日本企業は日本国内に多くの店舗があり、ギフトや生活スタイル製品を提供しています。そしてギフトや高級製品の開発は、当社の得意とする分野なのです。
 

-今後、更なる海外ビジネス展開をお考えですか?また海外ビジネス展開を成功に導くために、貴社が大切にしている事、重視したい事は何でしょうか?

 

そうですね。当社は海外事業の拡大に向けて最善の努力をしています。


ターゲット市場を理解するのは当然ですが、海外の顧客との信頼を築くには、適正製造規範(GMP)のような国際水準の認証や、その他必要な基準を取得することが当社にとって必要です。日本市場について言うなら、適切な市場に向けて適切な製品を生み出せるために、日本の文化や需要についてもっと学ぶ必要があります。また、日本の高齢化社会に対応した製品についても関心を持っています。

-貴社ビジネスが属する、自国におけるマーケットの状況について教えてください。

 

簡単に述べると、石鹸には手作りのものと大量生産のものの2種類があります。タイでは美容・ハーブ・ナチュラル製品などの市場において、手作り石鹸の利用が増えています。人々が高付加価値の石鹸を使い始めたのは3年程前のことです。しかし、現在使われている石鹸は、鹸化させた手作りの石鹸であることが多く、この製法を当社が始めたのは今年になってからです。我々は大量生産品に対抗することはできないため、自然素材やハーブが付加価値を持つこのニッチ市場に専念することを選びました。

 

ラックス、ダイアル、オレイなど、大量生産タイプの固形化粧石鹸については、売上が減少しています。これは、より便利な液体石鹸を消費者が使うようになってきているためです。

 

タイの石鹸製造業をけん引している国内企業はおよそ5社で、当社もその中に入っています。


-自社人材を育成していく上で、どのような点に注意を払って取り組んでいますか?


当社は集権型の経営方式で運営する同族会社ですが、このような経営方式のまま会社を拡張するのは困難であり、社風を変えるのは非常に困難であると認識しています。

 

上記の状況を認識し、我々は数年前に行動を起こしました。まず、社のビジョンやミッションを明確にし、チーム構築活動に重点を置きました。そして重要目標達成指標(KPI)を取り入れ、社員が共通した目標を持つよう奨励しています。

 

会社自体の目標とは別に、我々が使命としていることの一つに、一人ひとりのスキルを伸ばして仕事をしやすくすることがあります。また当社は、職場における多様性の尊重も奨励しています。組織のためのみならず、社員や社会、そして我々自身にとっても多様性が重要だと考えているからです。


-最後に、日本や日本企業についてどのような印象をお持ちでしょうか。日本に来て驚いた事、感動したこと等ありましたら教えてください。


“創造性に富んでいる”という言葉が、私の日本に対する印象を説明する適正な言葉でしょう。この言葉は、食事やインフラ、機能的な製品、または日々の生活で使用する製品など、私が遭遇したほとんど全てについて言えます。これらは他の国では見つけることが難しいです。私はこれまで日本に7回以上来ていますが、来る度にいつも、私を感動させる何か新しいものがあります。

 

“敬意を表す”という言葉もまた、日本人がどのような人々であるか、私が実感した点です。ほとんどの人々は自然や人々、食事、彼ら自身あるいは他の人たちの責務といった、彼らの生活に関係したほとんどの事項において敬意を持っています。

 

これらの二つの言葉が、先進技術以外において日本企業がどのようなものであるかを映していると思います。彼らは仕事に敬意を表し、職務を全うするために全力を尽くしています。また常に何がなされるべきかについて考えて業務改善を行っています。彼らは周りの人々への敬意を忘れないため、現実主義で非常に想像力に富んでいるのかしれません。また彼らには素晴らしいチームワークという企業文化があります。これらが日本が成功してきた鍵であると、私は確信しています。

ご協力ありがとうございました。