専門家の声 メキシコ(アグアスカリエンテス)

三嵜英人 専門家
メキシコ(アグアスカリエンテス)
派遣期間:2017年10月~2018年7月
指導内容:自動車用トランスミッション部品製造における省電力化に関する指導

指導先企業の様子

日本から飛行機で23時間、メキシコ・アグアスカリエンテス州の自動車部品の製造先が指導現場です。指導先企業は自動車用トランスミッションの鍛造部品を製造しており、2014年に設立、2016年10月に量産を開始した、まだ若い会社です。

「鍛造?鉄を加熱して人が火箸で持ってプレスでたたくだけでしょ?」と簡単に思われがちですが、指導先企業は大型の自動プレスが導入され、人の不安定要素を安全に除外でき、生産効率を最大限に高めたラインで構成されています。この設備を使った製造は高度な技術が必要ですが、現地従業員にそのような職種を経験された方が少ないので技能が不十分という状態です。

さらにメキシコの気候が朝10℃、日中30℃、1日で気温差20℃!油脂類の調整・管理も立ち上げ当初は手探りで、設備の保守・管理基準の確立は苦労の連続でした。風習・文化・思想とすべてにおいて「日本のものづくり条件」をそのままコピー&ペーストとはいきません。

私の指導方法

そんな中で私が指導先企業に着任し、実施したことは大きく以下の3項目です。

指導中の三嵜専門家

  • 現場作業者と常にコミュニケーションを取り相互信頼を得ること…
    常に現場に出てどんな些細な意見でも真摯に聞いてリアクションをする。人として信用をしてもらうことを心がける。
  • 属人化してはダメ…
    このスタッフは出来るから何でも任せる、という考えは一切持たない。要領書で決められた作業を、何度も繰り返して確実に行える力量を全員につけてもらう。
  • 目標を持たせる…
    目標を達成するためのプロセスを教育し、細やかにアシストを行うことで半年後、1年後に達成感を体得させる。

この8カ月間、毎日現場に出て笑顔で挨拶しながら個々の体調を確認し、作業のポイントを何度でも繰り返し教えることで、指導対象者の発言が「これどうしよう」「なんとかしてください」から「このようにしたいと思います」「この判断は合っていますか」と徐々に変化しました。少しずつながら社風が変わっていくことを肌で感じ、今回の指導に携われたことを非常に嬉しく思います。

悩み事と解決策

メキシコの方はいつも陽気で、笑顔で挨拶をしてくれますが、実は悩み事もありまして…。

それは離職が頻繁に発生するという事実です。生涯一企業でという概念は一切無く、その企業で働く事が人生のスキルアップの一部と捉え、半年から2年で転々と、10ペソでも給料が高い企業に職を替えていきます。企業も人員を確保し続けることが非常に難しいお国柄です。

これが先にも述べました属人化してはダメということです。(本当にいきなり辞めますよ。せめて1カ月前に上司に相談、なんて全くその気もありません。でもこの国のシビアな実状です。)

対応策として、普段から現場に出てローカルスタッフとコミュニケーションを取り、些細な意見も聞いてあげることや、業務に対して個別目標を与えて達成感(やりきった感)を持たせることで、収入最優先ではなく、企業としての魅力を向上させることも必要と感じました。

とにかく日本とは習慣や考え方が全く異なり、この考えを自分が受け入れるまで困惑しましたが、残り2ヶ月指導を続けることで、どこまで彼らを成長させることができるか。最後まで奮闘は続きます。

指導先企業での様子

朝礼時/前日までの品質情報や気づき項目を展開(大所帯)

検査員への指導/要領書を用いた教育を何度も繰り返します

段替え作業風景(一人で要領を覚えて行います)

設備保全の勉強会風景

当寄稿は2018年8月22日発行の「AOTSメールマガジン No.89」で配信されました。