専門家の声 カンボジア

井上 宏治 専門家
カンボジア
派遣期間:2018年11月~2019年3月
指導内容:カシューナッツ工場の衛生管理体制構築に関する指導

現地スタッフとのコミュニケーション

私の指導分野である衛生管理というのは、日本人同士であったとしてもなかなか伝わりにくい分野です。今回の派遣先は、カンボジアの中でも首都プノンペンから車で片道4時間半の地方に位置します。派遣当初から概念の習得には相当時間がかかるだろうと覚悟していました。派遣元企業からの英語通訳者をつけていただいたおかげで、コミュニケーションにはおおむね支障はなかったのですが、衛生用語の中にはカンボジア語にないものも多くあり、それらをどのように伝え理解してもらうのか、日々考えておりました。例えば、「改善」などは中国やタイなどでも現地語化が進んでおり、今回も出来る限り日本語で教えられる単語は日本語で教えていこうと考えました。 

現地スタッフとのミーティング

印象に残っているのが「もったいない」です。日本語独特の表現らしいのですが、衛生管理、食品管理を行うにあたり、私は必須の感性であると考えています。何か無駄になっているのかを把握して改善するには「もったいない」と思う気づきがないとそこには至らないからです。

ある日ベルトコンベヤ上のカシューナッツを放置しているのを見つけ「正常な原材料でも長時間外部放置をすることで破棄しないといけない」と、オーナーと一緒に破棄させました。スタッフからは「まだ使えるのになぜ捨てるのか?」との声があがります。「その今の気持ちが、『もったいない』という言葉で表されるんだよ」と指導しました。その後、指導対象の衛生管理責任者が、従業員に対して「もったいない」と日本語で指示しているのを見た時、大きな手ごたえとやりがいを感じたのを覚えています。

健康の秘訣

カンボジアに派遣されての健康の秘訣の第一条件は、屋台等で食事をしないことです。悪くは言いたくはないですが、屋台の衛生管理は十分危険レベルであると言えます。

これから派遣される方々も、特に高齢者は気を付けてください。少々若ければ、一度や二度の食あたりは、抗体ができるので儀式みたいなものだと思いますが、私のような高齢者は他の病気を誘発する恐れがあります。私自身、屋台の衛生状態は否定しますが、食文化の否定はしません。

例えば、カンボジアでの面白い食材の一つにクモ(タランチュラ)の佃煮があります。現地の醤油ベースで味付けされたクモの佃煮が、炎天下で山積みにされています。食べたことのある人の感想曰く、沢蟹の佃煮みたいだそうですが、あの衛生状態ではアウトです。最近は養殖物と天然ものとがあるらしいです。また路上で目にするフルーツシェイクの屋台も炎天下の中では魅力的ですが、半端にカットされてガラスケースに陳列された果物と生卵が入っている場合もあるので、完全にアウトです。

また、リヤカーのような荷台で塩漬けの貝を売っている屋台もあります。現地の人たちはおやつ代わりに食べていますが、相当の確率で腹痛を誘発するでしょう。海外での仕事ですから、現地の食文化を楽しみ現地の人たちとの交流を持つのも重要なことだと思います。ただし、食べるものと場所は十分注意するように心がけることが一番の健康の秘訣です。

当寄稿は2019年7月17日発行の「AOTSメールマガジン No.101」で配信されました。