専門家の声 カンボジア

井上 宏治 専門家
カンボジア
派遣期間:2019年5月~2020年2月
指導内容:HACCP(国際認証)取得までの衛生管理に関する指導

効果的な指導方法

今回は2回目の派遣で、派遣先も前回と同じ工場であったため、ずいぶんと気持ちに余裕をもって指導に臨むことができました。日本から持参した教材をカンボジア語に翻訳し、再編成を行い、基本教材として使用しました。用語の概念、例えば「衛生」と「清潔」の違いや、「整理」と「整頓」の意味の違いなど、苦戦しながらも順調に指導を進めていた矢先に事件が起こりました。大量のスタッフが一時に辞めてしまったのです。そこには指導対象者も含まれていたので、私にとってもショッキングな出来事でした。辞めていった理由もさまざまなのでしょうが、驚いたのは「米の収穫時期で、実家での収穫があるため」という理由が多かったことです。

しかしながら、実家の米の収穫ごとに職を変えていては手に職もつかず、社会性も養えず、結果として本人のためにならないであろうと深く考えるに至りました。そして新人が雇用され、一部の指導をまた一からやり直すことになりました。ただ、これを機に知識を教えるだけではなく、もっと根っこにある根源的な指導方法を考えた結果、新しく「3M」という造語を考えて導入することにしました。

「3M」の意味は、「モラル」、「マインド」、「マナー」です。人が社会生活を送るうえで、なぜモラルが必要なのか、なぜマナーが必要で、なぜマインド(意識)が大事なのか。教材には、一時帰国した際に日本の小学校の道徳の教科書を持ち帰り、カンボジア語に編集したものを使用しました。当初は道徳がなぜ衛生に関係するのか分からず困惑していたようですが、しばらくすると新人スタッフも笑顔で毎朝挨拶をしてくれるようになりました。これも一つの成果として、帰国後も継続されることを願っています。

現地の穴場スポット

カンボジアにはアンコールワットという有名な世界遺産があります。今回赴任するまで知らなかったのですが、私が赴任した工場からほど近くに、さらに二つの世界遺産があります。

一つは、プレアビヒア州にあるタイとカンボジアの国境に臨む「プレアビヒア寺院」です。2008年、世界遺産に登録されました。標高の高い山が少ないカンボジアの中で、この寺院は標高500メートルを超える頂上に建立されています。寺院からタイ側の土地も臨むことができ、平野が一望できるのは壮観です。以前は、この寺院の権利をめぐってタイとカンボジアが争っていたそうですが、世界遺産として認定されたことを経て決着したということです。

もう一つは、さらに工場にほど近く、プレアビヒア州に隣接するコンポントム州にある「サンボープレイクック遺跡」です。2017年に登録されたばかりの新しい世界遺産です。アンコールワットよりも500年以上古い遺跡で、6世紀ごろに興った真臘(しんろう)王国の首都があったとされています。アンコールワットのような巨大さはないものの、内戦の被害が少なかったのか、状態の良い遺跡が点在しています。巨木の幹が絡みついた遺跡や日本の狛犬のような像があり、見ごたえはあると思います。

この世界遺産のある2州はカシューナッツの産地であり、派遣先工場では主にこの2州で収穫されたカシューナッツを加工しています。近い将来、この二つの世界遺産のお土産品や特産品として、カシューナッツが世界遺産とともに世界に広がっていくことを切に願います。

当寄稿は2020年8月19日発行の「AOTSメールマガジン No.112」で配信されました。