AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第136号~第137号

Contents

COVID-19の経済・雇用への影響、政府等の取り組み

 COVID-19による雇用への影響
 リモートワーク・ICT(情報通信技術)の活用
 メンタル不調の予防
 従業員のモチベーションとコミュニケーション

COVID-19のパンデミックに対する企業の取り組み

 COVID-19の危機を乗り越えるための企業の取り組み
 現行の労働法制の見直し
 将来に向けての取り組み
 

 

COVID-19の
経済・雇用への影響、政府等の取り組み

COVID-19による雇用への影響

スリランカでは2020年3月にCOVID-19感染拡大防止を目的として政府が課した人やモノの移動制限により食品・農業・医療部門を除く多くの組織活動は大小に関わらず操業の完全停止もしくは調整を余儀なくされた。

EFCの調査によると、厳しい制限下でも半数以上の企業・団体では在宅勤務を活用することにより部分的に業務を継続し、従業員の雇用を守った。しかしながらCOVID-19の影響により、スリランカ国内企業全体平均で幹部職の7%、非幹部職の9%の雇用が失われたとみられている。特に海外の急激な需要減に見舞われた輸出産業部門に限ると 幹部職の21%、非幹部職の19%の雇用が失われたと推定される。また、多くの企業が資金繰りの問題に直面し、最も大きな打撃を受けたのは中小企業で、宿泊・飲食サービス業は、客室稼働率、売上高、為替、投資面で最も大きな経済的損失を被った。

 

リモートワーク・ICT(情報通信技術)の活用

感染拡大防止のため、民間企業・公的機関ともに、遠隔で実施可能な業務はリモートワーク・在宅勤務が推奨されたが、政府部門の従業員はICT活用の知識・ノウハウやインフラが整っていないことから民間部門に比べ効率的な在宅勤務の運用が難しいことがわかった。スリランカでは、企業勤務者のうち業務に必要な水準のコンピューターリテラシーを有する者は30.8%、同様のデジタルリテラシーを有する者は46%とされており、ICTに詳しくない従業員にとってリモートワークへの転換は難しい。一方でアパレル業界ではロボティクスを活用して3Dサンプルをバーチャルに作成している等、民間企業の一部では先進的なICT活用がみられる。

EFCでは2021年3月に「ITとリモートワークカルチャー:パンデミックとその先」をテーマに製造業とIT業界の専門家を招いてフォーラムを開催、それぞれの部門でのベストプラクティスを共有し、会員企業がリモートワークで直面する課題を克服するための知見を得る機会を提供した。

メンタル不調の予防

不安、うつ、燃え尽き症候群など、パンデミック中に世界中で労働者が経験したメンタルヘルスに関する問題はスリランカでも同様であり、仕事と家庭のバランスをとりながら自宅で仕事を行うことは誰にとっても難しい課題である。

男性よりも女性の方が家事や家族の世話の負担が重いことが業務の生産性を低下させており、上級職の女性は男性より労働時間が長くなる傾向があることが調査で明らかになった。

従業員の精神的な健康を確保するため、企業の人事部門は自社従業員向けにカウンセリング、セミナーやパネルディスカッション、健康的な食事や適切な水分補給の指導、ヨガ講座などの取り組みを実施している。また、EFCでは、民間企業における上述のような対策を支援するため、民間企業向けの各種研修やワークショップ、ウェビナーを実施している。

従業員のモチベーションとコミュニケーション

従業員のモチベーションは組織全体のパフォーマンスに寄与する重要な要素であり、パンデミックにおいて従業員のモチベーションを維持することは、特に在宅勤務に従事する従業員を管理する際の重要な課題である。

モチベーションとコミュニケーションは密接に関係している。テレワークを導入している組織では、経営陣の戦略や決定が従業員に適切に伝わらないことで、効率的に働くことができず、従業員が孤独や気分の落ち込みを感じるなどの問題が生じており、こうした問題に対応するため、スリランカの使用者は従来とは異なるさまざまな斬新な手法を試みている。例えば従業員の間でWhatsAppやViberといったメッセージアプリによるグループを作成し、グループメンバー向けに毎日メッセージを送り、職場へ出勤していない従業員でもエンゲージメントを維持できるように工夫している例がみられる。 それ以外にも従業員向けに、組織の成功事例や事業計画、安全衛生のガイドラインや上級幹部のビデオメッセージを継続的に発信する、オンラインでバーチャルイベントを実施する、等の事例がある。上司からの定期的な電話連絡も従業員のモチベーション維持に効果がある。

EFCでは2021年11月に「従業員のエンゲージメントとモチベーションに関する課題の克服:パンデミックとその先」をテーマにフォーラムを開催、製造業とサービス部門の会員企業からパンデミック時に従業員のモチベーションを維持するための戦略を共有してもらった。

 

COVID-19の
パンデミックに対する企業の取り組み

COVID-19の危機を乗り越えるための企業の取り組み

パンデミックとその拡大を食い止めるための規制によって突然発生した未曾有の事態に対処するため、企業は生き残りの道を模索する必要に迫られ、 (a) 労働力の保護 (b) 在宅勤務の促進 (c) デジタル化の推進 (d) 従業員の社会的・心理的回復力の構築 (e) 賃金支払いのための基金の共同出資の検討 (f) 低所得労働者への所得支援 に焦点を当てビジネスプランと予算を再構築することを余儀なくされた。

労働力の保護は、製造業、卸売・小売業、ICT(情報通信技術)業界、金融・保険業で重要視されている。業務に習熟した労働者の不足により、現在の労働力と同等の技能を持つ労働者を見つけることが困難であること、法的規定により労働者を解雇する場合の補償費用が高いこと、あるいは、この一時的危機を乗り切り、すぐに事業運営が再開できるという希望と期待もその背景となっている。

ICT、金融、保険などオフィス系の職業では、危機への対応として在宅勤務を導入した。農林水産業や宿泊・飲食・サービス業など、マニュアル作業や対面業務が多い業界では労働力を維持するために短期的には賃金補助のような手段を選択することが多かった。実際、製造業、卸売・小売業、宿泊業、飲食サービス業などの相当数の組織が低所得者向けの所得支援を、実施すべき政策として提言している。

金融・保険業界の一部の組織は、実施可能な救済措置としてデジタル化を選択したが、対面サービスを前提とする宿泊・飲食業ではデジタル化は限定的であり、COVID-19が観光産業の事業所に与えた壊滅的な影響を考えると、賃金のための基金設置がより好ましい選択肢となるかもしれない。

ICT業界や製造業では、従業員の社会的・心理的レジリエンス(回復力)を高めることが非常に重要であることがわかった。レジリエンスの高い従業員は、仲間の従業員との関係において、問題に対してWin-Winの解決を目指すチームプレーヤーであり、事業所全体にプラスの効果をもたらす。良好な労使関係を維持するために、企業や業界レベルで雇用者と労働者との対話を強化する取り組みが行われた。

現行の労働法制の見直し

スリランカの現行の労働法では、パンデミックのような事態を想定していないため、このような規模の危機から生じる雇用と従業員関係に関する問題に対処することは困難である。すなわち、在宅勤務、柔軟な勤務形態、在宅労働者の権利を想定した労働法の規定がなく、その結果、使用者はこの危機を乗り越え、次の危機に備えるための革新的な労働形態を採用することが難しくなっている。

政府による労働市場関連政策の策定や見直しは、宿泊・飲食サービス、ICT、金融、保険の分野で特に必要とされている。具体的には、在宅勤務の促進、フレックスタイム制、給与等の支払いに関する規制緩和(特にプランテーション部門)、政府主導による新たな賃金支払いスキームの導入、ロックダウン期間中の非労働日と従業員の休暇の相殺、EPF(被雇用者準備基金)/ETF(被雇用者信託基金)拠出金の支払い猶予、従業員の解雇や法定諸手当の支払いに関する既存の労働法の修正などである。

将来に向けての取り組み

労働関係の変化に備えて現行の労働法を整え、変化に適応できるように法律を強化することが重要で、EFCが何年も前から訴えてきたことだが、COVID-19の発生により労働法改正の必要性は一層緊急性を増している。

世界の多くの国々と同様、スリランカも将来的に高齢化が進むと予測されている一方、デジタル化は今後も仕事の形を変えていくと思われる。パンデミック危機以前からあった仮想化、プロセスやサービスの自動化、ハイブリッド型オンライン市場の出現、サプライチェーンの多様化といった変化は、COVID-19によりペースを速めている。

こうした情勢の中、就労環境や雇用環境に関係するすべての利害関係者が、この危機を克服するだけでなく、将来起こりうる課題に備えるために、協力し合い、共同で協議するアプローチの重要性を理解することが重要である。

短中期的には、在宅勤務、パートタイム勤務、フレックスタイム制、フリーランス勤務、ジョブローテーション、その他の新しい勤務形態といった革新的なソリューションなど、組織は新しい勤務形態に移行する必要があるだろう。特に今後、国内の大規模な失業の発生を回避し、貧困を削減するためには、上述の移行を支援し、労働力への悪影響を最小限に抑えるための制度的枠組みを整えることが重要である。

しかし、このような動きは、移行中に労働者が搾取されないことを保証しながら行わなければならない。政労使三者構成組織の各当事者が、その権限に基づき行動しながら全員の利益を守ることに警戒を怠らなければ、このような移行は混乱や紛争を最小限に抑えて行われるであろう。

我々は現在この危機を、雇用者・被雇用者・国が「ニューノーマル」において回復力を持ち、繁栄するために戦略を練り直し、革新し、適応し、技術指向のアプローチを採用する機会として受け止めている。

最も重要なことは、現在の状況において危機を乗り切り、スリランカにおける労働法の枠組み見直しを含む改革を進め、今後数年間でより弾力的で持続可能な労働市場を構築するために必要な「大局」に焦点を当て、すべての利害関係者の間でより良く、より強い関係を築くことである。