AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第23号~第25号

Contents

   1. シンガポールの労働組合の状況
   2. 労使紛争の要因と解決
   3. 使用者団体から見た労使紛争の対抗措置

1. シンガポールの労働組合の状況

1) 労働市場の変化
労働省(Ministry of Manpower)の統計によれば、高等教育を受けたシンガポール人の比率が、2004年の36.4%から2014年の51.5%に増加した。シンガポールの労働者が高い学歴と優れた能力を獲得することで、「専門家、管理職、役員(Professionals, Managers and Executives; PMEs)」の比率も同様、2004年の27.0%から2014年の30.1%に増加している。
一般労働者は、以前、ほとんどが非管理職であり、自分自身を高く売るような交渉ができないと思われていたために、不平等な雇用慣行に文句が言えなかった。しかし、労働者層に変化が起こり、自分自身を高く売る交渉ができるPMEs層が増え、今や、シンガポールの労働者の1/3を占めるようになった。

 

2) 労働力の課題

・外国人労働者
    シンガポールは知識産業化社会に移行しているところであり、企業は、現在、オートメーション化の普及とイノベーション志向経済に適った優れた技術と知識を兼ね備えた労働者を求めている。
    シンガポール政府は、最近、労働者不足の現況下で、外国人労働者の雇用割り当てを厳しく規制することで、企業に工夫を促し、生産性を向上させ、労働者依存を減らすように要請している。
・高齢者の人口
    外国人労働者の供給を厳しく規制こととは別に、高齢者の増大が、シンガポールにおける労働者人口を急速に縮小させている。平均労働者の年齢は、39.3歳になっている。有効求人倍率は、2014年9月現在で1.42である。これは、100人の求職者に対し142の仕事があることを示している。

2. 労使紛争の要因と解決


1) 労使関係の法令の変更
2002年の労使関係法の改定で、労働組合は、限られた労使関係事項の範囲内であるが、単独に「専門家、管理職、役員(PMEs)」を代表にすることを認められた。しかし、1つの会社で別の組合を持つ必要性を最小限に抑えるために、将来、労使関係法の改定では、PMEsが組合代表になることを認める追加的オプションが与えられると思われる。このことで、組合同士の競争を防ぎ、良好な労使関係が推進される。

 

2) 労働市場におけるシンガポール人の優先的雇用政策
2014年8月、Fair Consideration Framework (FCF) 規制が導入された。この規制の下、企業は、管理職の仕事を外国人に求人募集する前に、まず、シンガポール政府が運営するジョブ・バンクと呼ばれる求人募集サイトにシンガポール人の求人募集を14日間、掲載することが必要となった。企業は、シンガポール人を優先的に雇用している努力を証明する必要性が出てきたのである。しかし、このことは、ローカル労働市場で容易に得られない高度で特別な技術を早急に必要とする企業にとっては、チャレンジとなるだろう。

 

3) 労働力の代替人材
人材開発省のレポートによれば、労働者が経済活動をやめた理由の多く(69.5%)が、家庭の事情だと述べている。現在、家庭の事情から経済活動に従事していない(働いていない、仕事を探していない)グループ層の81%が、女性である。これらのグループ層の中には高学歴で、専門分野に大きな貢献が可能な人たちもいることは、特記すべきだろう。
経済活動に従事していないグループ層を労働力として再活用するためには、企業は、家族の世話をしているグループ層のニーズに対応できる職場でのフレキシブルな働き方を奨励することが肝要である。フレキシブルな働き方の例は、自宅勤務、時差出勤、労働時間短縮、ジョブ・シェアリング等がある。
定年退職の年齢は、現在、62歳となっている。新しい法令である定年再雇用法では、使用者は、従業員を65歳まで再雇用することが求められる。企業は、従業員を再雇用することで、法で定める年齢を超えて雇用を継続することが奨励されているのである。

3. 使用者団体から見た労使紛争の対抗措置

・「専門家、管理職、役員(PMEs)」の組合代表の制約緩和に期待
    2002年の労使関係法の改定で、限られた労使関係事項の範囲内であるが、「専門家、管理職、役員(PMEs)」を労働組合代表にすることが認められた。さらに、組合代表となるための制約が緩和され、PMEsに本格的な団体交渉が認められれば、1企業における組合数は最小限となり、組合同士の競争は減らすことができる。

 

・労働市場におけるシンガポール人優先雇用政策の例外措置の是正
    Fair Consideration Framework(FCF)規制は、シンガポール人優先雇用が要求されているが、従業員が25名以下の企業は、規制に従う十分なリソースがないということで、この要求が免除されている。しかし、SNEFは、これらの企業でも雇用する際にシンガポール人を優先的に雇用することを期待する。

 

・政府による財政的支援の利用を奨励
    政府は、労働者の職務再設計やワークライフ・バランスの実施を支援することで、使用者による職場環境改善のインセンティブを提供する。ワークライフ・バランスの実施は職場復帰を願う労働者や高年齢労働者に魅力的なプログラムとなっている。使用者は、政府による財政的支援を利用することが奨励されている。

 

・67歳までの再雇用義務化に備える
    再雇用義務化は、近い将来、65歳から67歳に延長されるだろう。現在、使用者はこの件に関する企業方針の調整を強く要請されており、67歳までの再雇用義務化施行の際にすぐに対応する準備が望まれている。
    現在の所、政府は、企業が自発的に65歳以上の従業員を再雇用することを奨励するインセンティブを提供している。インセンティブのための予算は、次の予算からと予告されているので2015年から実施されることになる。
    再雇用された従業員は、企業の生産性に寄与するばかりでなく、若い従業員のメンターやコーチ役となって指導育成をサポートすることが期待されるのである。