AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第109号~第111号

Contents

    1.インダストリー4.0に対するインドネシアの政策
    2.インドネシア4.0に対するインドネシア経営者連盟(APINDO)の取り組み
    3.インドネシアにおけるインダストリー4.0に関する政策実施の課題

1. インダストリー4.0に対するインドネシアの政策

インダストリー4.0は今後避けることのできないトレンドであり、インドネシア政府はこれに取り組んでいくことを決定している。インドネシア政府によるインダストリー4.0に対する取り組みは、2018年4月に当時インドネシア工業相であり現在インドネシア経済調整相であるアイルランガ・ハルタルト氏によって開始された。インドネシア政府は、既存の産業がより高度な技術によって競争力を獲得し、経済をインダストリー4.0に適応させることができるよう、段階的に政策を調整していくことを計画している。インダストリー4.0に関するインドネシアの政策は次の3つにまとめることができる。

(1) 構造改革

インドネシアの経済インフラを整備しインダストリー4.0を推進するために構造改革を行う。そのために、デジタルインフラを含むインフラの整備、人材開発、主要な政策の見直しを行い、事業の円滑化、投資の簡易化、生産性の向上を達成する。また、構造改革へ積極的に参加する企業へはインセンティブを与える。

(2) オフテイク

インドネシアの工業生産高を向上させ成長を加速させるためにオフテイクを行う。そのために、あらゆるチャンネルを活用してインドネシアの工業製品を国内外のマーケットで販売する。また、貿易協定を新たに結ぶ。

(3) グローバルマーケット対策

インドネシアの工業生産がグローバルマーケットに浸透するよう、あらゆる対策を行う。例えば、中小零細企業を国内外のサプライチェーンに組み込み、自由貿易協定を最大限に活用し、貿易制度の簡素化や商取引の円滑化を行う。

インドネシアがインダストリー4.0への移行を成功させるためには人材開発が重要であり、インドネシア政府は人材開発に予算を充て尽力することを表明している。2020年度予算では教育や研修に対する補助金が大幅に増やされ、企業が職業訓練や研究開発に充てる費用に対し減税措置も取られる。これらの措置は、過去5年で政府が教育へ振り分けた予算に追加して実施される。

2. インドネシア4.0に対するインドネシア経営者連盟(APINDO)の取り組み

インドネシア経営者連盟(APINDO)は、インドネシア経済をインダストリー4.0へ移行させようという政府の計画を全面的に支持し支援している。APINDOは政策面でも実務面でも積極的にインドネシア政府に協力し、インダストリー4.0への移行が迅速に行われるように尽力してきた。インドネシアの変革は政府だけで成し遂げられるものではなく、インドネシアの事業体それぞれからの協力が必要となる。以下、APINDOの政策面での取り組みを紹介する。

(1) オムニバス法

オムニバス法は、既存の国家政策を見直すインドネシア初の試みであり、インドネシアにおける事業と投資の円滑化を目指したものである。オムニバス法が目的としているのは、インダストリー4.0の推進に不適切な規則を撤廃することだけでなく、事業にとって障壁や制限となるものを取り除き、投資や効率的な生産活動を可能にすることである。APINDOは、経済システムの改善を目的としたAPINDO経済政策ロードマップ2019~2024を第2期ジョコウィ政権への政策提言として提出しており、これによってオムニバス法に貢献している。内閣官房は政策や規則を見直す際の参考資料としてこれを使用している。また、APINDOは内閣官房と緊密に連携し、オムニバス法の条項の改定について提言している。オムニバス法は2020年3月制定が目標となっている。

(2) インドネシアの様々な貿易交渉

インドネシア政府と貿易交渉担当者に対し民間部門を代表してパートナー国との貿易協定に関する情報を公式に提供している業界団体は、APINDOとインドネシア商工会議所(KADIN)の2団体だけであり、APINDOとKADINは2016年から共同チームを結成してこれを実施している。以来、APINDOは政府の貿易交渉担当者に数多くの政策を提言し、インドネシアの貿易交渉のスタンスに影響を与えてきた。APINDOとKADINによる重要な提言の例として挙げられるのは、インドネシア-欧州連合包括的経済連携協定(IEU CEPA)に関するKADIN-APINDO協議報告書、インドネシア-オーストラリアCEPAの交渉に対する共同政策提言である「二つの近隣国、繁栄のパートナー」、IEU CEPAにおけるテキスタイル、アパレル、フットウェアの交渉に関する声明文等がある。また、APINDOは「自由貿易協定実践ガイド」を作成し、事業者向けに貿易交渉のプロセスや日々の業務にどのような影響があるかを解説している。

(3) 労働法と税法の改正

インドネシアの産業界がテクノロジー4.0に適応するためには、時代遅れの労働法と税法を改正し変革を実現しなければならないとAPINDOは考えている。労働法は労働移動を可能にするような柔軟なものに作り変え、新しい技術の導入や労働者の継続的な教育・能力向上を推進し、生産性向上へのインセンティブを与えてコストのバランスを取っていく必要がある。また、税法は包括的なものに作り変え、課税標準を拡大して競争力のある財政環境を整備し、オンラインシステムの活用によって財政の透明性を確保し、(特にオンラインビジネスの事業者とオフラインビジネスの事業者とで不公平が無いように)事業者にとって公平な競争の場を作る必要がある。APINDOは労働法と税法の改正に尽力してきた。労働法に関しては法案を提出し、政府と労働組合が現在その法案について議論している。税法に関しては法案を提出していないものの、APINDOの税法委員会が新しい法案の作成にあたって様々な研究会や調査会に参加し、財務省と継続的に協議している。

インダストリー4.0をインドネシアに根付かせるためには政策面での変革も重要ではあるが、日々の企業活動の中で変革を起こすことも重要である。よって、APINDOは、経済政策の改革が実行される際、それが実務面でも政府の目標に沿ったものになっているか最新の注意を払っている。また、実務面で政府と密に協力し、政策が企業で効果的に実施されるように支援している。例えば、APINDOの会員企業で職業訓練や見習い研修制度を推進し、貿易協定に関する情報提供を行い、中小零細企業の参加促進や国内のeコマースにおけるインドネシア製品の比率の引き上げに尽力している。

3. インドネシアにおけるインダストリー4.0に関する政策実施の課題

昨今の世界経済の成長低迷によりインドネシア経済が停滞し、インダストリー4.0に関する政策を進める上での外的な阻害要因になっている。インドネシア政府も企業も国民も、経済への損害を防いで財政や経常収支をコントロールすることを優先しなければならず、インダストリー4.0に関する取り組みは後回しになってしまっている。また、世界経済の不確実性が継続することによって、インドネシアのような新興国には外資が流入しにくくなり、輸出市場が縮小してきている。外資流入や輸出収入が少ない状態では、インドネシア企業が新しい技術や従業員教育、新規事業への参入に投資することは困難である。

国内の課題としては、構造改革が遅れていること、財政面での実行力がないこと、インダストリー4.0推進に関わる人々の意識や文化の問題が挙げられる。特に、経済政策の改革が遅れていることはインダストリー4.0を推進する上での最大の課題である。変えなければならない経済政策が数多くあり、そのために必要となる政治的プロセスを考えると、インダストリー4.0のための経済政策の改革は非常に遅く、インドネシア経営者連盟(APINDO)とインドネシアの経済界が望んでいるものからは程遠い。政府は総選挙のごたごたで2018年はほとんど改革を実行することができなかった。総選挙後でさえも、期待するような速さでは改革が実行されていない。また、インドネシアは地方分権であるため、地方政府の改革の進捗が中央政府とは一致しない。地方政府では経済関連政策が非常に優先され、公務員の働き方も中央政府とは大きく異なる。よって、地方政府の政策が中央政府と一致するように中央政府は取り締まらねばならず、インダストリー4.0のための国の経済改革は大幅に遅れてしまっている。APINDOはこれらの課題を解決するためにAPINDOの地方支局と協力し、中央政府の政策実行の進捗状況とその達成目標を共有している。こうすることによって、APINDOの地方支局は可能な限りAPINDO本部と同じ認識を持って政策の実行を推進することができる。また、APINDOは、オンラインによる事務手続きを地方政府にも広げて透明性を徐々に強化していくよう政府に提案している。

インドネシアでは産業やビジネスの規模によって新しい技術へ投資を行う財務面での実行力に大きな格差があり、この格差は、テクノロジー4.0の推進、イノベーションへの投資、製造業のサービス化を促進していく上での課題である。世界的な投資の抑制傾向や道半ばの外資の規制緩和、高い借入利率が原因で、企業がインダストリー4.0のための資金を調達する方法はほとんどない。現在のインドネシアでは、自動化、コネクティビティ、サービス化を可能にする新しい技術を導入できる企業は一握りである。一般的に、このような新しい技術に投資できるのは買い手や投資家からの強いバックアップがある企業だけだ。

最後に、インドネシア政府や企業等のインダストリー4.0推進の関係者が持つ時代遅れな考え方と保護主義的な気質を変えることを国内の課題として挙げたい。インダストリー4.0では、開放性、説明責任、コネクティビティ、継続学習が求められる。インドネシアの経済界には時代遅れの考えを持つ者が多く、その保護主義的な気質がインダストリー4.0をインドネシアにもたらす外資の流入を阻んでいる。APINDOは、インダストリー4.0の目標を達成するために海外事業者は必要なパートナーであると考えている。目標を迅速に達成するためには、インドネシアの資本や知識は大変限られているからだ。これらの課題は、APINDOが開催しているフォーラム等を通じた関係者との継続的な対話によってのみ克服できる。