AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第114号~第115号

Contents

    1.持続可能な開発目標(SDGs)に関するフィリピンやフィリピン経営者連盟(ECOP)の取り組み
    2.SDGsに関する取り組みの企業事例

1. 持続可能な開発目標(SDGs)に関するフィリピンやフィリピン経営者連盟(ECOP)の取り組み

国際労働機関(ILO)は、SDGsの目標8「働きがいのある人間らしい仕事(Decent Work)」を推進している。政労使の三者もILOの方針に従い目標8「働きがいのある人間らしい仕事」に取り組み尽力してきた。また、フィリピン経営者連盟(ECOP)は、「仕事の未来(Future of Work)」についても認識しており、人工知能やIoT等の技術の導入によって変化が起きる中で労働力を準備していかなければならないと考えている。ILOの掲げる「ディーセント・ワーク課題」や「仕事の未来」に関して、以下、ECOPの取り組みを紹介する。

(1) 賃金合理化法(共和国法第6727号)
(SDGグローバル指標8.5.1「時給」に関する取り組み)

ECOPは地域三者賃金生産性委員会において使用者を代表し、フィリピンの労働者の生産性について取り組んでいる。地域三者賃金生産性委員会では生活賃金や地域ごとの最低賃金が決定される。ECOPは各地域の委員会の代表を担い、ワーキングプアの問題に対処している。また、この委員会では、貧困線、平均賃率、消費者物価指数、地域内総生産等、各地域の社会経済的特徴についての検討がなされている。

2012年に最低賃金法が改正された際、二重賃金制度が導入された。二重賃金制度の狙いは、最低賃金が原因となって意図せず起こりうる問題を最小限に抑え、脆弱な産業分野を保護することにある。最低賃金を底値(第一階層)として維持しつつ任意の生産性賃金(第二階層)を設定することによって、生産性向上と利益分配を促進し、労働者の所得保護を強化することができる。また、労使の団体交渉を強化して不透明な賃金格差を縮小していくことができる。

(2) 出産休暇の延長(共和国法第11210号)
(SDGグローバル指標8.5「完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金」、SDGグローバル指標5.6.2「性と生殖に関する健康と権利」に関する取り組み)

この法律は女性の労働参加を促進することを目的としている。従来の出産休暇は60日~78日だったが、女性労働者は公共部門も民間部門も105日の出産休暇を得られるようになった。追加で無給の休暇を30日取得することも可能になった。シングルマザーには105日に追加して有給の休暇が15日付与される。この法律のために使用者が追加手当を避けようと採用選考で女性を差別するのではないかと危惧されるが、女性差別禁止強化法(共和国法第6725号)において使用者が雇用条件で性別のみを理由に女性を差別することを禁止している。また、女性の権利は「女性憲章(共和国法第9710号)」によって守られており、暴力からの保護、参加と代表、法の下の平等、機会均等、差別禁止、あらゆる医療サービスと情報、社会保障等に対する女性の権利が記載されている。

(3) テレワーク、障がい者雇用、年齢差別禁止
(SDGグローバル指標8.5「完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金」に関する取り組み)

テレワーク法(共和国法第11165号)もまた女性の労働参加を促進している。この法律は民間企業の従業員がコンピュータ技術等を使用して別の場所から仕事をすることを認めており、テレワークの実施が可能な特定の業種のみに適用される。また、障がい者雇用は、「障がい者憲章(共和国法第7277号)」によって強化されている。ECOPは、「雇用における年齢差別禁止法」として知られている2017年版省令第170号の作成を通して雇用機会均等の促進に携わった。

(4) 若年者雇用対策
(SDGグローバル指標8.6.1「若年者の就労、就学、職業訓練」に関する取り組み)

フィリピン経営者連盟(ECOP)が2015年に発行した「効果的なスキルマッチによるフィリピンの労働市場の効率化に関する政策的枠組み(Policy Framework for Improving Labor Market Efficiency through More Effective Job Skills Matching in the Philippines)」において、スキルのミスマッチを「必要とされているスキルを備えた労働力の供給が十分ではないこと」または「労働力の供給は十分でもそのスキルが必要なものとは異なること」と定義している。労働市場に関する情報が時代遅れなために、スキルのミスマッチが広がり続けている。問題は国内の仕事不足ではなく、求められているスキルと求職者のスキルが一致していないことにある。これは、労働雇用省の就職フェアに関する報告書で実証されている。引用すると、2014年と2015年に全国で行われた就職フェアで4,239,392件の求人があったにも関わらず、応募者1,286,073人のうちその場で採用されたのはたったの391,088人だけだった。ECOPはこの問題を解決するために下記を推奨してきた。

(1)産業界のパートナーと緊密に連携し、今まで業種別に実施してきた解決策を試す。
(2)専門的な職業教育やその教育を受けた卒業生の「イメージ」向上に寄与する。
(3)実際の採用活動から使用者がどのような能力を求めているのか把握する。

(5) 児童労働撲滅
(SDGグローバル指標8.7に関する取り組み)

ECOPは政府が取り組む「児童労働ゼロの企業」を促進してきた。過酷な労働条件下にある児童労働者を開放し将来良い就業機会を得られるように支援している。また、ECOPは労働雇用省が主導する児童労働委員会にも参加している。この委員会の目的はプログラムの設立・維持・拡大であり、加盟機関や支援団体の業務上の関係に関するガイドラインを制定してプログラムの方向性を示す役割を担っている。

(6) 労働条件と労使関係の改善
(SDGグローバル指標8.8.2に関する取り組み)

ECOPは労働条件のコンプライアンスを推進してきた。例えば、コンプライアンスを企業に根付かせるための能力開発プログラムを実施している。また、「カパティ賞(Kapatiran sa Industriya)」によって企業の取り組みを表彰している。カパティ賞はECOPが1995年に設立し隔年で開催しているもので、労使関係、品質と生産性、倫理的で責任のある事業活動、雇用創出、事業の持続可能性の分野で優れた取り組みを行った企業に与えられる。こうした優れた活動を行っている企業は、労働組合の有無に関わらず調和の取れた労使関係を構築しており、高い生産性と品質、労働条件の向上、社会との関係強化という良い結果を生み出している。

ECOPは、労使の二者間の対話を確立するために労働組合とも会合を持っている。姉妹団体のフィリピン商工会議所(PCCI)やフィリピン輸出業者連盟(PHILEXPORT)と共に、フィリピン労働組合会議(TUCP)、自由労働者連盟(FFW)、フィリピン進歩労働同盟(SENTRO)と、労働条件に関する問題について協議している。例を挙げると、最近では、労働の契約化、在職期間保障、最低賃金の上昇等について議論を行ってきた。しかし、それらの問題について労使のリーダーで意見が一致せずとも、コンセンサス形成と労使協調の鍵として二者間協議を支援することで合意し、このパートナーシップを制度化するために覚書を締結した。

(7) 労働安全衛生の推進
(SDGグローバル指標8.8.1「労働災害」に関する取り組み)

ECOPは労働安全衛生を積極的に推進してきた。また、労働安全衛生法(共和国法第11058号)の施行規則の作成や、労働安全衛生のコンプライアンスに関する企業向け研修の実施にも携わってきた。

2. SDGsに関する取り組みの企業事例
「ジョリビー・フード・コーポレーション 高齢者や障がい者への雇用機会の提供」

ジョリビー・フード・コーポレーションは、Jollibee、Chowking、Greenwich、Red Ribbon、Mang Inasal、Burger King Phillipines、Highlands Coffee、Pho 24、The Cofee Bean & Tea Leaf等のブランドを展開するフィリピン最大手のファーストフードチェーンである。同社は、高齢者や障がい者の雇用を増やしたいというマニラ市の要請に応じ、2019年8月にマニラ市と高齢者や障がい者の雇用に関する覚書を結んだ。同社は、1店舗につき高齢者2人と障がい者1人を雇用するという方針の下、マニラ市にあるJollibee、Chowking、Greenwich、Mang Inasalの39店舗で最低3人の高齢者または障がい者を雇用している。また、2020年2月にパサイ市とも高齢者や障がい者の雇用に関する覚書を結び、パサイ市での高齢者や障がい者の雇用にも尽力している。雇用された高齢者や障がい者は、店内での顧客誘導、メニュー説明、店内清掃等を担当している。同社の努力は、高齢者や障がい者を社会の構成員として労働市場に迎え入れることに貢献している。