AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第116号~第118号

Contents

    1.トルコの労使関係
    2.トルコの労働協約と労働争議
    3.トルコの労使関係における三者構成
    4.トルコの労使関係のホットトピック
    5.トルコのインダストリー4.0の取り組み

1. トルコの労使関係

(1) トルコの労使関係と公的部門

トルコの公的部門で労使関係を担当する主要機関は家族・労働・社会サービス省である。家族・労働・社会サービス省と連携し、社会保障機構(SGK)、トルコ雇用機構(ISKUR)、労働監督局も、労使関係に関する業務を担っている。社会保障機構(SGK)は、国民全員に社会保険と健康保険を提供している。社会保障・一般健康保険法第5510号では、公務員、労働者、自営業者が対象とされている。トルコ雇用機構(ISKUR)は、職業紹介事業を担う主要機関として、雇用や労働者を発掘するという従来のサービスを提供するとともに、労働力に関連する政策を実行している。また、国家機関として雇用の改善・拡大と失業防止に尽力し、民間の職業紹介事業者の設立・承認・運営を監督している。

(2) トルコの労使関係と労働組合

トルコ議会は産業別労働組合主義の原則を採用している。労働組合は産業別(経済活動別)に設立されなければならず、現在、次の20種の労働組合が存在する。農業・林業・狩猟・漁業、食品、鉱業、石油・化学・ゴム、繊維・皮革、木工・製紙、通信、印刷・出版・放送、銀行・金融・保険、商業・事務・教育・芸術、セメント・セラミック・ガラス、金属、建設、エネルギー、運輸、造船・海上運送・倉庫・保管、保健・社会サービス、宿泊・娯楽、国防・保安、一般サービスである。また、家族・労働・社会サービス省が2019年7月に発表した公式統計によれば、トルコの労働組合組織率は13.76%で、組織労働者は1,894,170人である。世界的傾向とは逆にトルコの労働組合組織率は増加しており、2017年7月11.95%、2018年7月12.76%、2019年7月13.76%となっている。トルコの労働組合は労働者による組合と公務員による組合の2種類に分けられる。労働者による組合が争議権と団体交渉権を持つのに対し、公務員による組合は交渉権しか持たない。ナショナルセンターは、主にトルコ労働組合連盟(TURK-IS)、トルコ真正労働連盟(HAK-IS)、トルコ進歩労働組合連合(DISK)の3つがある。

(3) トルコの労使関係と使用者団体

法律第6356号に従い、トルコの使用者団体は産業別(経済活動別)に設立されなければならない。ただし、公的部門の使用者団体はその必要がない。使用者による全国レベルの団体はトルコ経営者連盟(TISK)だけである。TISKは、金属、繊維、化学、製薬、保健、建設、セメント、鉱業、公共事業の分野の21の使用者団体から構成されている。TISK自体は労働組合との交渉を行わないが、その会員である使用者団体が労働組合との交渉を行っている。TISKの傘下にある使用者が雇用する労働者はトルコ全土で約200万人に上る。TISKはトルコの使用者を代表し40以上の国内機関や8つの国際機関で活動している。例えば、国内ではトルコの労働市場政策や社会政策の形成に寄与している。国外では、国際労働機関(ILO)におけるトルコの使用者の唯一の代表であり、ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)、経済産業諮問委員会(BIAC)、国際経営者団体連盟(IOE)、地中海企業家団体連合会(BUSINESSMED)のメンバーでもある。 

2. トルコの労働協約と労働争議

労使関係に関する主要な法律は、労働法第4857号、「労働組合および労働協約法」第6356号、「公務員による組合および労働協約法」第4688号の3つである。労働法第4857号が採択されたのは2003年で、個々の雇用関係と雇用契約の基本規則となっている。

労働協約は、労働者が安定した穏やかな職業生活を送ることができるよう、労働組合と使用者団体、もしくは労働組合とシンジケートに属していない使用者の交渉の結果、締結されるものである。労働協約によってカバーされる内容は、労働時間、休憩時間、許可、懲戒規定、安全衛生、喫煙禁止、シフト、食堂・託児所の使用、給与、昇給、残業代、休日出勤、賞与、特別賞与、手当等である。締結期間は最低1年から最長3年であり、署名後に契約の条件を変更することはできないし、契約満了より前に契約を終了することもできない。労働協約の締結事項が実行されない場合、それによって起こる紛争を解決する方法は、法律によって認められている正当なストライキかロックアウトの2つである。ここ数年、ストライキの回数は減少しており、2017年が23件、2018年が12件であった。また、ロックアウトの件数は2017年が0件、2018年が1件であった。

2018年以前、調停は系統的な手法で当事者間のコミュニケーションを可能にする自発的な紛争解決手段と法律で定義されていた。しかし、2018年1月1日に新しい法律が施行され、労働争議の訴訟を起こす前にまず調停を申請することが義務付けられた。この強制調停は労働債権等の一般的な労働争議に適用される。この新しい法律が目的としているのは、労働争議をより短期間により低コストで解決することである。調停の手続きは60日以内に労働協約の合意に達しない場合にも開始され、調停者には紛争解決のために15日間が与えられる。調停の終了前にストライキを開始することは認められていない。 

3. トルコの労使関係における三者構成

トルコの労使関係では三者構成のシステムが活発に機能している。国レベルでの社会対話を実現する場として、主に労働会議、三者協議会、高等仲裁委員会、最低賃金決定委員会を挙げることができる。

1946年から実施されている労働会議は、政労使の社会的パートナーが主に労使関係に関連した時事問題について話し合う場であり、政府・労働者・使用者・大学からの人員で構成されている。直近の第12回の労働会議は、「明るい未来のための労働」をテーマとし、100周年を迎える国際労働機関(ILO)のガイ・ライダー事務局長を招いて2019年5月に開催された。参加者は、「仕事の未来(Future of Work)」とそれが労働市場へ与える影響について意見を交わした。

三者協議会は、ILO条約第144号及び勧告第152号や関連するEU指令に準拠する社会対話の場であり、政府の代表者、各労働組合連合からの労働者代表、使用者代表から構成されている。政労使の社会的パートナーで労働法の改正・整備・実施について意見交換し対話を促進することを目的として、年3回開催される。

高等仲裁委員会は、団体交渉における使用者と労働者の紛争を解決するため、1982年に設立された。大臣、裁判官、使用者代表、労働者代表から構成される中立的な機関であり、紛争解決の決定権を有している。

最低賃金決定委員会もまた重要な三者構成のシステムである。トルコでは法定最低賃金が設定されており、労働法の対象となる雇用契約を結んでいる労働者全員に最低賃金が適用される。毎年の最低賃金の決定・改定は、家族・労働・社会サービス省が管轄する最低賃金決定委員会によって行われている。最低賃金決定委員会は、労働局長または副労働局長とその他4名の政府代表、大多数の労働者を代表する団体であるトルコ労働組合連盟(TURK-IS)からの5名の労働者代表、トルコ経営者連盟(TISK)からの5名の使用者代表で構成されている。委員会は年4回開催され、過半数の投票によって最低賃金が決定される。同票の場合は議長が決定票を持つ。

4. トルコの労使関係のホットトピック

最低賃金はトルコで今最も注目されている話題である。2019年12月17日に開催された第3回の最低賃金決定委員会で、トルコ経営者連盟(TISK)は過去5年間の最低賃金の上昇率がインフレ率を大幅に上回っている状況を指摘した。最低賃金の高い上昇がトルコの企業、非公式経済、労働力の統計に悪影響を及ぼしている。最低賃金を決定する際は国の経済状況を考慮することが必須である。一方で、トルコ労働組合連盟(TURK-IS)は、高いインフレ率によって購買力が減じているため労働者の生活を最優先に考えて最低賃金を決定すべきという考えから、2020年の最低賃金(月額)を手取り額で2,576.00リラ以上にすべきだと主張した。最終的に2020年の最低賃金(月額)は手取り額で2324.71リラと決定され、前年から約15%上昇した。

もう1つ現在トルコで注目されている話題はフレキシブル・ワークである。今後フレキシブル・ワークの導入を推進していくことを、トルコ大国民議会の本会議において副大統領が発表した。政労使の社会的パートナーが合意すれば、試用期間や短時間勤務のルールがより柔軟なものになるだろう。TISKはフレキシブル・ワークの推進を支持しており、トルコの失業問題を解決するためにはフレキシブル・ワークを広めていくことが不可欠だと考えている。また、フレキシブル・ワークはワーク・ライフ・バランスを実現するだけではなく、労使の視点から考えても雇用と生産活動の維持に貢献するだろう。現在、試用期間は雇用契約に明記していれば最長で2ヶ月、労働協約で合意していれば4ヶ月まで延長できることになっているが、TISKは試用期間を12ヶ月、時間短縮勤務への助成金の給付期間を6ヶ月に延ばすべきだと提唱している。しかし、TISKの意見とは反対に、労働者代表は「試用期間と時間短縮勤務への助成金の給付期間を延ばすことは労働者の既得権の侵害であり、フレキシブル・ワークの導入は失業者の減少に繋がらない。本当の問題はフレキシブル・ワークではなく長時間労働と労働者の既得権であり、それについて議論すべきだ」と主張している。

5. トルコのインダストリー4.0の取り組み

「国家雇用戦略2020~2023」に関する会議が家族・労働・社会サービス省によって2019年12月に開催された。会議では、政労使の社会的パートナーが2020年~2023年の国家戦略、特に「仕事の未来(Future of Work)」について議論した。この国家戦略の目的は、失業問題を解決すること、経済的・技術的発展によって雇用状況を改善すること、社会的弱者に関する課題を解決しつつ労働市場を発展させることである。以下、この国家戦略の中でインダストリー4.0に関連する内容を記す。

  • 技術開発の中心である情報産業では必要な能力を備えた優秀な人材が求められている。トルコ雇用機構(ISKUR)はそのような人材の育成を積極的な労働市場政策によって支援する。
  • サイバーセキュリティ分野で必要とされる人材を育成するための研修を実施する。その研修に必要なインフラの整備を政府が支援する。
  • 女性・若者・障がい者を主要なターゲットとした情報産業の新規プログラムを作る。
  • プログラミングや人工知能に関する教育・研修を普及させる。
  • 通信教育やオンライン教育等を受けられる機会を増やす。
  • 政府が情報産業の企業を支援し雇用の優遇措置を取る。
  • 将来重要となる分野の労働力需給に関する科学技術研究を行う。
  • デジタルトランスフォーメーションによって新たにどのような職業が生まれるか予測し、その職業に必要となる研修を開発する。
  • デジタルトランスフォーメーションと技術導入に向けて、既存の労働力を教育訓練する。
  • インダストリー4.0の観点から地域別・産業別の中長期的な職業マップを作成する。この職業マップにより地域別・産業別の開発優先順位を検討する。
  • 高等教育向けに未来の仕事のロードマップを作成する。
  • 将来、現在と異なる仕事が増えたとしても持続可能な成長を続けていくために、連帯経済と共同組合を促進する。
  • 専門家や半熟練労働者の需要を満たすために、人工知能の分野で事業を展開している企業や今後事業を展開する企業を支援する。
  • デジタル化と技術発展に対応できる労働法を整備する。