AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第119号~第120号

Contents

    1.インダストリー4.0に関するバングラデシュの政策
    2.インダストリー4.0に関するバングラデシュの課題
    3.バングラデシュにおけるインダストリー4.0と既製服産業

バングラデシュ政府は、国内のスタートアップ文化を支援・促進するためにスタートアップファンドを設立した。ビジネスやテクノロジーに関する記事を掲載しているFuture Startupによれば、バングラデシュで本格的なスタートアップはまだ十分に生まれていない。この業界は将来有望で話題性はあるが、世界の投資家達はバングラデシュ市場にあまり関心を示していない。政府はこうした状況に介入して投資を増やし、お役所的で煩雑な規制を緩和して、世界的に有名な専門家をアドバイザーに招き、スタートアップ・エコシステムを作り上げる必要がある。

1. インダストリー4.0に関するバングラデシュの政策

2016~2017年の労働力調査によれば、バングラデシュには15~29歳の若年労働者が2010万人いる。バングラデシュにおいて第三次産業革命はまだ完全に成熟した段階にはないが、多くの若年労働者を抱えるこの国は今後インダストリー4.0の大きな成長拠点となる可能性を秘めている。また、2018~2019年のGDP成長率は8.13%であり、多国籍企業がどんどん増加してきている。バングラデシュがこのグローバルな雇用機会を活かすためには、国家戦略を発展させると同時に、若年労働者の能力を開発して国際労働市場における他国の若年労働者と同レベルの能力を身に付けさせる必要がある。また、次の3つを実施することが重要である。

(1) テクノロジーに焦点をあてる

若年の教育・能力開発を行う際は、インダストリー4.0で重要となるテクノロジー分野の労働市場に焦点を置く必要がある。今後、人間中心の仕事の多くはバングラデシュも含め世界中でロボットに置き換えられ、人工知能(AI)技術が急速に市場で広がるだろう。自動運転車、ドローン、拡張現実(AR)はもはやSF映画だけのものではなく、すぐに私達にとって身近なものとなるだろう。だからこそ、このような世界中で起こりうる未来に若者が対処できるよう、準備していかなければならない。

(2) 起業家精神やスタートアップ文化を促進する

バングラデシュ政府は、国内のスタートアップ文化を支援・促進するためにスタートアップファンドを設立した。ビジネスやテクノロジーに関する記事を掲載しているFuture Startupによれば、バングラデシュで本格的なスタートアップはまだ十分に生まれていない。この業界は将来有望で話題性はあるが、世界の投資家達はバングラデシュ市場にあまり関心を示していない。政府はこうした状況に介入して投資を増やし、お役所的で煩雑な規制を緩和して、世界的に有名な専門家をアドバイザーに招き、スタートアップ・エコシステムを作り上げる必要がある。

(3) 国外在住のバングラデシュ人による支援

多くのバングラデシュ出身の科学者が世界中の大規模な組織で働いており、多くの経営幹部が世界中のテクノロジー企業で価値を生み出している。このような人々に対して、スタートアップに投資するか、バングラデシュ国内の人材の能力開発をするかによって、バングラデシュ市場へ参入するよう促していきたい。国外で教育を受けた経験豊富なバングラデシュ人から少しでもインスピレーションを得ることによって、国内の若者が自分の運命を変えることができるようになるだろう。これは必ずしも複雑な話ではない。バングラデシュの未来のために議論し行動することが重要だ。

2. インダストリー4.0に関するバングラデシュの課題

バングラデシュ経営者連盟(BEF)の加盟企業はインダストリー4.0に関して次の課題に直面している。

(1) 経済的課題

・経済的コストが高いこと。
・ビジネスモデルの適応が難しいこと。
・経済的利益が不明瞭であること。

(2) 社会的課題

・プライバシー保護に関する懸念があること。
・監視に対する不信感があること。
・変化に対する抵抗感があること。
・自動化やITの導入により多くの(特にブルーカラーの労働者の)仕事が失われること。

(3) 政治的課題

・法的規制や認証制度が無いこと。
・法律上の問題やデータセキュリティが不明瞭であること。

(4) 組織的課題

・ITセキュリティの問題があること。
・マシンツーマシン(M2M)に必要な信頼性と安定性を確保すること。
・生産プロセスの完全性を維持する必要があること。
・生産停止を引き起こすIT障害を回避する必要があること。
・産業技術を保護する必要があること。
・インダストリー4.0への移行を早めるために必要な知識が不足していること。
・経営陣のコミットメントが低いこと。
・従業員の能力が不足していること。

3. バングラデシュにおけるインダストリー4.0と既製服産業

バングラデシュで既製服の製造が始まった時から、特に過去30年において、既製服産業はバングラデシュ経済に大きく貢献してきた。既製服産業がバングラデシュの輸出収入の5分の4以上を占めており、既製服産業で雇用されている労働者は400万人を超える。既製服産業の2019年の輸出収入は341億3000万USドルであったが、バングラデシュ政府は建国50周年の2021年までに500億USドルに引き上げることを目標にしている。バングラデシュには縫製工場が約5000ある。米国グリーンビルディング協会(USGBC)によれば、そのうち101の縫製工場がLEED認証を取得している。LEED認証工場トップ10のうち6つの工場がバングラデシュに存在し、25のバングラデシュの工場が最も高いレベルのLEED認証を取得している。さらに、500を超える縫製工場がLEED認証の交付を待っているところである。

バングラデシュは安価な労働力が豊富なことでよく知られている。既製服産業は、数多くの雇用を創出し、貧困層を削減し、女性の地位を高め、バングラデシュ経済の活性化に重要な役割を果たしてきた。また、バングラデシュの女性の労働参加率を押し上げた主要因でもある。しかし、既製服産業に従事している労働者の多くが非熟練労働者であり、自動化によって熟練労働者の需要が増している現在の状況において非熟練労働者は遅れを取ってしまう。バングラデシュ政府のa2i(Access to Information)プロジェクトと国際労働機関(ILO)によれば、バングラデシュの既製服産業に従事する労働者の約60%が2030年までに失業し、自動化によってロボットに置き換えられるという。生産工程に機械を導入することによって非熟練労働者や半熟練労働者がその影響を受ける可能性は、熟練労働者よりも高い。

バングラデシュには多くの余剰労働力があるが、技術が発展したことにより、労働力を使うよりも自動化を選択した方がより多くの利益を得ることができるようになってしまった。現在、既製服製造業者の経営者達は生産工程を自動化していくことに力を入れている。バングラデシュの既製服産業を完全に自動化するためには多くの時間と莫大なコストがかかるだろう。生地から服を作るのには14のステップがあるが、現在、技術革新によってほぼ全てのステップで自動化が進んでおり、労働力への依存が弱まってきている。例えば、レーザー加工機、縫製ロボット、3Dプリンター、ロボットアーム、編み機等が導入されている。バングラデシュの縫製工場でも今あげた機械のうちいくつかが既に導入されており、約250の縫製工場が最新技術を用いて生産を行っている。高度な技術を用いることによって生産コストを大幅に(30~40%)削減することができ、生産性向上やリードタイム短縮といった波及効果を得ることができる。

Epyllion、Pacific Jeans、Dekko Designs、Fakir Fashion、Ananta等のバングラデシュの縫製工場の多くは、Coats Digitalのデジタルソリューションを現在使用している。世界有数の製糸企業であるCoats社が近年バングラデシュでテクノロジー部門のCoats Digitalを立ち上げ、世界中で使用されているFast React、GSD、ThreadSol等のソリューションを1つのブランドにまとめ、バングラデシュの既製服製造業者にワンストップショップを提供している。このCoats Digitalのソリューションによって、設計、開発、コスト計算、生地仕入れ、企画、取引等のバリューチェーンを強化することができ、コスト削減やリードタイム短縮を実現することができる。

ダッカにあるMohammadi Fashion Sweaters Ltd.の工場では、173台のドイツ製機械が黒のニットを編む様子を数十人の作業員が監視している。時折、作業員がプログラム設計に手を入れたり機械のメンテナンスを行ったりするが、それ以外に人間がしなければならないことはほとんどない。ほんの数年前までは数百人の作業員が1日最長10時間、手作業でニットを編んでいたことを考えると、これは大きな変化である。Mohammadi Fashion Sweaters Ltd.の経営者は2012年からその工程の手作業の廃止を進め、2019年までに完全な自動化を達成した。

既製服産業の自動化は現在進行中であり、バングラデシュは既製服産業を次のレベルに引き上げるために自動化を進める他ない。インダストリー4.0はチャンスをもたらすが、それと同時にもたらされる避けることのできない課題にも向き合わなければならない。自動化は雇用に影響を与える。労働者はテクノロジーやロボットにより置き換えられてしまうため、解雇や人員整理が起こる恐れがある。一方で、自動化によって雇用が創出される場合もある。機械は作業員が監視する必要があり、ずっと使用していれば摩耗や損傷が出てくるため修理やメンテナンスが不可欠となる。しかし、自動化によって創出される雇用には技術と教育が必要である。バングラデシュでは熟練労働者が不足しているため、このような新しいポストに見合った人材を教育・獲得することはこれからの課題になるだろう。

マッキンゼーが実施した調査によれば、バングラデシュは少なくとも今後5年間は世界中の衣料品の小売業者にとって最大の調達先であり、バイヤーの調達料は増加し続ける見込みである。世界経済や地域経済の要因を考慮すると、2021年までに既製服産業の輸出量は500億USドルに達し、その目標達成には約600万人の労働力が必要になるだろう。しかし、世界のバイヤーは、よりファッショナブルで洗練された高価値・高品質の衣料品をバングラデシュで調達することに重きを置きつつある。また、バイヤーは、特にデザイン、差別化、品質、生産性、サービス、コンプライアンスの面で高度なレベルの製造ができる既製服製造業者からの調達を好む傾向がある。現在、多くの既製服製造業者がバイヤーの選択に合わせて高付加価値生産に移行しつつあり、今後もこの傾向は続くだろう。長期的な観点から見れば自動化が成功の鍵であることが明らかであろう。