AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第127号~第128号

Contents

   1.新型コロナウイルスがベトナムの経済に与えた影響
   2.新型コロナウイルスがベトナムの労働に与えた影響
   3.新型コロナウイルスに対する使用者(企業)の対策と法の適用

   5.ベトナムの現状(2021年2月)と今後

1. 新型コロナウイルスがベトナムの経済に与えた影響

ベトナムは過去10年間にわたり、5.2%以上のGDP成長率を維持していた。2020年に入っても、当初は高い成長率を維持していたものの、2.91%まで急落した。しかし、世界的にみると落ち込みが非常に小さい国の1つである。

 

最も大きな影響を受けた分野は航空業界と観光業界の2つだ。2020年の入国外国人はわずか16,300人、そのほとんどが国内で就業する専門職だった。海外からの入国者にはすべて14日間の隔離が課される。3回の検査で陰性であれば、パンデミック管理運営委員会のガイドラインに従い就業することが可能となる。

2. 新型コロナウイルスがベトナムの労働に与えた影響

ベトナムの人口は約1億人、うち就業者数は約5,500万人だったが、2020年には就業者数が5,340万人に減少した。ベトナムの労働市場が縮小に転じたのはここ10年で初めてのことである。

 

2020年12月現在、全国で3,210万人がパンデミックの影響を受けている(69.2% 収入の減少、39.9% 労働時間の削減、14.0% 失業)。ベトナムの労働力人口(15歳以上の就業者数及び完全失業者)は年平均0.8%ずつ増え、毎年160万人が労働市場に参入する。2020年の労働力人口は、5,460万人で2019年よりも120万減少した。つまり、COVID-19によって失業が増え、かつ、160万人分の新規雇用が奪われたことになる。また、COVID-19は多くの失業者を生み、その一部はインフォーマル分野の労働に就くことを余儀なくされた。

 

政府の対策は大きく三つの領域に分かれる。

  1. 緊急:税金等の支払いの猶予、企業の従業員への金銭的支援、消費刺激策
  2. 全般的:国内市場のさらなる開拓、ビジネス環境の改善、現在の課題とチャンスの明確化
  3. 長期的:新しいビジネスモデルに対応した政策や法律の整備、雇用や人材育成のニーズを満たす事業や科学技術のイノベーション創造・応用の促進、将来性や優位性のある産業の重点的支援

3. 使用者(企業)の対策と法の適用

労働法によれば、使用者にとって不可抗力である感染症が流行した場合、使用者は以下の決定を行う権利を有する。

  1. 業務の一時停止
  2. 別の業務への転換
  3. 雇用主による労働契約の解除
  4. 労使の合意に基づく一時帰休
 
実際に企業がCOVID-19のパンデミックを受け行った対策の主要なものは以下の通り。

(調査参加企業700社、ベトナム商工会議所調査、2020年5月) 

  • 緊急対策ユニット設置: 74% 
  • 業務割り当てスキーム: フレックス制(62%)、労働時間削減による全従業員の雇用維持(47%)、在宅勤務(41.23%)、人材育成に注力(41%)、給与引き下げ(19.93%)、労働契約の解除(19.42%)
  • 濃厚接触者・新型コロナウイルス感染症患者への給与: 全額支払い(50%)、無給(20%)、その他(30%)
  • 経営陣と労働組合の協議体制強化: 85%
  • その他取り組みとして回答があったもの:保健省・国家疾病対策計画のガイドライン順守
     

本パンデミックを機会に人材の研修や再教育に取り組むと答えた企業が41%あったことはとても重要である。また、パンデミックを受けて、労使間の協議体制が大きく進展した。労使双方で解決策を協議したという企業が30%あり、85%が協議体制の強化をしたことは大きな進展である。

 

2020年には「2012年労働法」が改正され、企業が給与の停止や契約解除などを行う場合には、法的文書が追加で求められることになった。賃金カットや契約解除が恣意的に行われないよう、従業員に支払われる給与や報酬を明確化することが目的である。

4. 新型コロナウイルスパンデミックを経験したベトナムの課題とチャンス

ベトナムではパンデミック発生後、多くの課題に直面してきたが、課題と同時にチャンスも見出すことができた。

疾病としてのCOVID-19に対し、ベトナムは非常にうまく対処でき感染者数も少なかったが、経済への打撃は大きかった。企業は生産チェーンの崩壊に苦しみ、新規発注がなく、発注があった場合でも従来とは異なる要件がつく等、対応に苦慮した。企業のリーダーは雇用を維持するのかあるいは労働契約を解除し、状況が改善してから新たに募集するのか、選択を迫られている。企業と従業員や個人間の信頼関係の悪化や、前例のない処遇が従業員に強いられる等、その影響は大きい。

 

現時点では状況がいつ好転するかは予想がつかない。一方、様々な分野でICT(情報通信技術)が取り入れられ、ワークフローや業務割り当ての見直し、公共サービスや企業活動のデジタル化が加速した。また、社員の再教育の機会ともなり、労使間の協議体制強化にもつながった。

 

パンデミックはベトナム経済界にとって、これからのビジネスに必要な能力を構築し、かつ、ビジネスを継続させていくという点において、非常に大きな試練である。

5. ベトナムの現状(2021年2月)と今後

ベトナムはパンデミックの影響はあるものの、損失は最低レベルと言え、感染者数も低いレベルで留まっている。平常の暮らしと全く同じとは言えないが、新年を祝う花火を皆で祝い、市街地にも買い物客が戻り、平常に近いレベルに戻ってきている。

 

5K(マスク着用・消毒・集会の禁止・健康申告・ソーシャルディスタンス)の予防対策があらゆる形で実施されており、国内の移動も簡単になった。ビジネスにおいては、諸外国の生産チェーンの崩壊や海外人材の移動が困難であることは依然として懸念事項である。また、ICT活用のためには国内のインフラの改善も必要であり、これら多くの変化に対応するための人材の質も向上していく必要がある。

 

世界銀行はベトナム経済が2021年のごく早い時期に回復すると予測している。2021年にベトナムはGDP成長率6.8%を達成し、その後も6.5%前後で安定するというのが世界銀行の予測である。ベトナム経済にとっても労働問題にとっても大変重要な予測であり、近い将来の改善が期待される。