AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第146号~第147号

Contents

COVID-19による影響緩和に向けた、政府及び企業の取組み

 COVID-19パンデミックにより加速されたICTの採用
 デジタル化と新しいテクノロジーの採用の促進

COVID-19パンデミック下でのICT・AI技術の活用状況

 業界が求めるスキル向上への対処
 マレーシア・デジタル経済・計画

 

COVID-19による影響緩和に向けた、政府及び企業の取組み

2022年は、経済活動や社会セクターの再開、貿易需要増によってGDP成長率5.5%~6.5%が期待されています。さらに、商品価格の上昇、労働市場状況の改善、デジタル化への移行、乗数効果の高いインフラ・プロジェクトなどが一層の経済成長を促すと考えられます。

しかし、一方で、変異株の拡大や洪水が医療システムへの大きな負担となって、経済活動に悪影響を及ぼす可能性があります。変異株から身を守るには追加接種がとりわけ重要で、過去3年間にわたるCOVID-19への対処から得られた教訓に基づいて、適切な公衆衛生方策が極めて重要になっています。

1.COVID-19パンデミックにより加速されたICTの採用

パンデミックの発生以来デジタル化のペースが速まり、企業によるデジタル技術の採用により従業員の在宅勤務の機会の増加につながりました。デジタル化はすでに雇用と職場に大きな変化をもたらし、要求されるスキル、労働基準、労働者福祉に重大な影響を及ぼしていくと考えられます。

これまでもテクノロジーは、決定的な役割を果たしてきましたが、第4次産業革命(4IR)は、仕事の本質を革新的に変化させようとしています。

たとえば、AIとロボティクスの採用により、労働者は手作業主体から、データ駆動型の自動化された未来に向かっています。人々が工場の生産現場で繰り返していた作業は、ロボティクスとコボティックス(協調ロボット工学)などの自動化技術と、連携したデータに基づいて意思決定を行うような、さらに高いレベルの仕事に置き換えられようとしています。COVID-19パンデミックがこの変革を加速させました。

新しい働き方のためには、企業は、従業員のリカレント教育やスキルアップといった能力開発を推し進めるために、熱心さと、戦略的なアプローチをもって機敏に対応する必要があります。誰もが新しいデジタルツールの知識を持ち、理解する必要があります。能力開発には、新しいスキルセットを持つ新人の雇用、外注、新たなパートナーシップの締結など、多くの形態に対応しなければなりません。雇用主は、雇用している従業員が新たな職務要件を満たすため、新しい能力やスキル獲得を支援する、スキルアップにより注力する必要があります。

2.デジタル化と新しいテクノロジーの採用の促進

マレーシアは、デジタル技術をすべての経済領域で段階的に統合する取り組みを開始しました。しかし、マレーシアの全企業の98%を超える中小・零細企業(MSME)にとっては、経済の完全なデジタルへの移行を阻むハードルがあります。小さな企業でも、利用可能な支援プログラムを用意してデジタル化できるようにしなければなりません。政府は、これまでにSMEデジタル・アクセラレーター助成金、100GoDigital・スマート自動化助成金によって中小・零細企業が業務プロセスを自動化し、デジタル化が促進できるよう支援してきました。例えばマレーシア・デジタルエコノミー公社(MDEC)は、個人事業者や零細事業者の業務プロセスのデジタル化を支援しています。MDECのデジタル化イニシアティブには、グローバル・オンライン・ワークフォース(GLOW)、eUsahawan、eRezekiプログラムなどがあり、特に低所得者層向けには、オンライン・クラウドソーシング・プラットフォームを介したデジタル業務から、副収入を得る機会を創り出しています。

さらには、マレーシアの5Gが普及すると、消費者向け高速ブロードバンドの利用、自動化の加速、企業のデジタル統合によるあらゆるプロセスのさらなる効率化やコネクテッド化の実現が可能となります。

 

COVID-19パンデミック下でのICT・AI技術の活用状況

1.業界が求めるスキル向上への対処

デジタル業務の求人件数は多いとはいえ、その大部分は経験豊富な人材に対するものです。そのため、新卒者がデジタル業務の仕事に就くことは簡単ではありません。Upwork、Freelancer.com、Fiverrなどのプラットフォームは、新卒者が企業から独立した立場でデジタル業務に携わる機会を提供することで、経験不足を補えるような取り組みを行っています。同時に、初級レベルの人材向けには、データアナリスト、ソフトウェア開発、各種プログラミング言語、クラウド・コンピューティングなど、需要の高いデジタルスキルを獲得させて求人につながるような取り組みを行っています。

マレーシア・デジタルエコノミー公社(MDEC)はまた、それぞれの人材が適切な研修コースを選択できるように、IT専門家が監修しデジタル・スキル・トレーニング・ダイレクトリーを作成しました。求職者だけでなく、従業員もまた、需要のあるスキルの研修を通じてキャリアを強化できます。このダイレクトリーには、デジタル技術関連分野における最近の傾向と今後有望なキャリア機会の情報が掲載されていて、学生の進路選択にも役立っています。

一方、人材開発公社(HRD)は、産業スキル・フレームワーク(IndSF)と呼ばれるツールを開発し、職業カテゴリー毎に必要となるスキルと能力を評価できるようにしました。このツールの目的は、雇用主、従業員、および研修プロバイダーが、求められるスキルの最新状況を把握できるようにすることです。IndSFには、専門性の高いハードスキルだけでなく、コミュニケーション能力などのソフトスキルについても各職業に必要なスキルが網羅され、定期的な更新を通じて、雇用主と従業員にとって有益な情報を提供しています。

2.マレーシア・デジタル経済・計画

社会全体に及ぶデジタル化の波に対応し、マレーシアが今後テクノロジー先進国として発展していくための戦略として、マレーシア・デジタルエコノミー・計画が策定されました。計画では、①公共セクターでのデジタル変革、②デジタル化による経済競争力強化、③デジタル化に必要なインフラ構築、④優秀なデジタル人材の育成、⑤社会全体をカバーし誰もが利用可能なデジタル社会の創造、⑥安心・安全で倫理的なデジタル環境の構築、という6つの戦略的指針を明記しています。計画では、マレーシアの雇用主が、労働者のリカレント教育を続ける一方、従業員が要求される将来のスキルを満たすため、スキルアップを続けられるよう戦略的な道筋を示しています。

一方で、人材の供給側にとっては、デジタル関連教育をさらに重視し、ITでない分野においても分析的思考やソフトスキルを取り込み、就業の可能性を高めていく必要があります。
企業の日常活動にとっては、デジタル化のための現行のさまざまな取り組みの継続性が重要で、この結果、人材を雇う側、雇われる側の双方が、前向きに今後の事業に必要となるデジタル化や自動化に向け対応できるようになるものと考えます。