AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第148号~第150号

Contents

フィリピン(第149号~150号)
フィリピンからの公開シンポジウムについての報告(1)
フィリピンからの公開シンポジウムについての報告(2)

*記事は2022年度AOTS労働事情シンポジウムよりフィリピン経営者連盟(ECOP)基調講演の情報を編集したものです。

カンボジア(第148号)
カンボジアからの公開シンポジウムについての報告

*記事は2022年度AOTS労働事情シンポジウムよりカンボジア経営者ビジネス協会連盟(CAMFEBA)基調講演の情報を編集したものです。

 

フィリピンからの公開シンポジウムについての報告(1)

アジア開発銀行(ADB)によると、2022年のフィリピン経済は、移動制限の緩和に伴い、内需が急速に回復し、国内外の高インフレにもかかわらず、堅調に推移しました。国際通貨基金(IMF)によると、フィリピンの実質国内総生産(GDP)は、2022年は6.5%から7%の成長が見込まれています。

また、フィリピン統計局が実施した最新の労働力調査によると、2022年7月現在の15歳以上人口に占める労働力人口の割合(労働力率)は65.2%、総就業者数は、サービス業、特に卸売業と小売業が大きく貢献し4,740万人に増加、就業率は94.8%と、コロナ禍以来、最高を記録しました。

これにともなって、失業率は前年同期の7.2%から5.2%へと大幅に低下し、2005年以降の労働力調査では、7月期の失業率として、最も低い値となりました。

このような好調な経済成長にもかかわらず、フィリピンでは、2021年現在、約2,000万人が貧困基準以下で生活しています。これは人口の18.1%に相当し、2018年の1,767万人という記録を上回ります。経済の回復がかならずしも貧困の削減につながっておらず、コロナ禍の影響で、収入だけでなく、健康や、教育の点で、貧困層を取り巻く環境の悪化が懸念されています。

昨年6月に就任したフェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領は、6年の任期が終わる2028年までに貧困率を9%まで削減することを目標としており、質の高い仕事や、競争力のある製品の創出、国際取引の一層の自由化、人的資源や社会保障への政府支出の拡大、製造業の変革などに対策が進められようとしています。雇用創出のために、特に零細・中小企業の役割が重視されています。

コロナ禍で大きな影響を受けた雇用を回復させるための国家戦略(NERS)では、期限付きで解雇と再雇用を繰り返す違法な短期雇用を一掃し、官民連携(PPP)を通じ、農業、旅行観光業、運輸業の強化が志向されています。これ以外にも、前大統領が注力した都市化・インフラ開発、電子商取引やビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)のためのデジタルインフラの整備などを引継ぎ、新政権が、フィリピン経済を一層けん引することが期待されています。

 

フィリピンからの公開シンポジウムについての報告(2)

コロナ禍によって、デジタル経済が急速に発展しましたが、フィリピンでは2021年、前年比93%増という記録的な成長を成し遂げ、アセアン諸国の中で最もデジタル経済の成長スピードが早い国と認識されるようになりました。2021年のフィリピンの電子取引は、170億米ドルの規模ですが、2025年までには400億米ドルまで拡大すると予測されています。

デジタル技術の発展は、オンラインのフリーランス、デリバリー、タクシー配車サービス、マイクロワークといったデジタルプラットフォームを通した独立した単発の仕事を特徴とする労働市場を、コロナ禍によって大量に失われた雇用を補いつつ、さらに拡大させています。写真、ブログ、グラフィックデザイン、ライティング、映像撮影、建築、エンジニアリングは、フリーランスとして、今や簡単にオンライン上で仕事を見つけることが可能です。フィリピン・クリエイティブ経済委員会によれば、150万人のフィリピン人が、フリーランス向けのオンライン・プラットフォームに登録して、日常的に仕事を請負っています。

また、出勤と在宅勤務を組み合わせたハイブリッドワークは、フィリピンのトレンドで、調査によれば、労働者の約60%がハイブリッドワークを希望しています。昨今のガソリン価格上昇や、通勤に伴う交通渋滞などを考慮すると、労働者は在宅勤務のほうが合理的と考えており、また労働者の多くが、ハイブリッドワークにより、幸福度が向上したと感じていることも分かりました。

一方、経営者も、調査の約97%が、「ハイブリットワークを支持する」と回答しています。
実は、フィリピンでは、コロナ禍以前の2018年に、在宅勤務法が制定されていて、同法の下で、経営者は自発的に、そして自社の従業員との合意に基づいて、在宅勤務プログラムを提供できるのですが、実際にハイブリッドワークへの対応が万全な企業は、全体の30%未満にとどまります。

コロナ禍によって加速した新しい働き方、雇用関係の多様化に、経営者団体としてどのように対応していくべきでしょうか。コロナ禍を通じ、労使間の社会的対話と協力の重要さがあらためて認識され、労使の信用と信頼の構築に向け、さまざまな取り組みがフィリピンでも模索されています。

 

カンボジアからの公開シンポジウムについての報告

ご存じではないかもしれませんが、カンボジアのコロナ禍からの回復度合いは、世界で最速に位置付けられています。(Nikkei COVID-19 Recovery Indexによる)コロナ禍にあっても他国に比べると比較的良好な経済発展が続いており、2021年度、4%であった経済成長率は、2023年度には6.3%に拡大することが見込まれています。

カンボジアでは、これまでは衣料・縫製分野が産業の中心で、輸出の中で50%以上の割合を占めてきましたが、金額ベースではほぼ同額の状況が続くなかで、産業に占める衣料・縫製分野の割合は、年々小さくなってきています。

こうした経済発展のなかで、主要産業の衣料・縫製分野における最低賃金は、労働組合などからの要望を受けて年々増加しているものの、月約200ドル(通勤手当等を除く)、労働時間は、まだまだ長く年間2200時間を超えますが、一方で、年間祝日が、これまで年28日であったところ、22日に縮減したり、祭日が日曜に重なった場合の振替休日を取りやめたり、生産性や効率性を向上させるための施策が実施されています。

カンボジアでは解雇が容易ですし、時に大量解雇も行われます。日本の雇用環境とは真逆のことも多く、労使関係は対立的ではありますが、コロナ禍の経験を踏まえ、労働者にとっては、柔軟な働き方、雇用者にとっては、柔軟な雇用契約など、カンボジアならではの労使関係を通じて、さらなる経済発展を目指しています。

こうしたなかカンボジア経営者ビジネス協会連盟は、110万人以上の労働者を有する2500のメンバー企業に対し、法的サポートやコンサルテーションを提供しています。