AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第158号~第159号

Contents

フランス(第158・159号)

フランスの労働市場の状況
高い失業率と労働力不足
ワーキングライフに関する新協定

 

フランスの労働市場
の状況

高い失業率と労働力不足

コロナウイルス感染症の急激な増加から3年が経過し、フランスの労働市場の状況は安定しています。フランス国立統計経済研究所(National Institute of Statistics and Economic Studies:INSEE)によれば、フランスの労働市場は、2023年の第1四半期には42,000件の新たな就労の機会を作りだし、経済が1年超にわたり停滞の兆候を示していたにもかかわらず、力強さを維持しています。労働市場の回復力は、異常なことではなく、特にサービス分野の市場における、コロナ後の回復基調の恩恵によるものです。

しかしいくつかの業界では、特に建設分野において回復の動きが止まり、このため労働市場が悪化し始めた可能性があります。2024年に向けてのマクロ経済予測が力強いものであっても、企業を取り巻く環境は、インフレや地政学的な問題により不安定な状況が目立ちます。

第一に、労働力不足はいまも主要な産業で生産性を制約する最大の要因となっていますが、主として建設、ホテル、レストラン、健康と介護業界において顕著です。このことは、フランスの労働市場の最も構造的な変化を表していると考えられます。職員採用の困難さは、当初、パンデミックの結果と分析されていましたが、現在も求人難は続いています。

フランスは、なおも完全雇用からは程遠い状況ですが、マクロン大統領は、5か年計画の終了にあたる2027年までに目標が達成されることを期待しています。雇用率(73.6%)がこれほど高かったことはなく、企業は将来に自信を持っています。一方、失業率は、以前として高く、約7.2%です。これは、コロナウイルス・パンデミック以来最低の数字ですが、依然として高いままであり、フランスにおける顕著な構造的失業の状況を表しています。

もう一つの問題は若年者(15-24歳)の失業率で、16.6%に上昇していますが、これは2019年から5.2%も増加しています。

依然として高い失業率と労働力不足の状況については、多くの理由がありますが、労働市場において、スキルに関しての需要と供給とのミスマッチが、とりわけ重要な理由です。この問題に対する対策として主な手段は、スキルアップとリスキリングです。

ワーキングライフに関する新協定

2023年に労働組合、使用者団体、政府の間で合意された労働市場の改革に関する協定である「ワーキング・ライフに関する新協定」の枠組みにおいて、労使の代表者は、目標について交渉し、目標を具体的な提案に転換させなければなりません。具体的には、従業員の収入を改善すること、富をより良く配分すること、労働条件をさらに改善すること、キャリアアップ、そして高齢者の再雇用の推進です。

「ワーキング・ライフに関する新協定」の枠組みは、憲法評議会によって非難された年金改定案ではありますが、いくつかの条項については引き継ぐべきことが提言されています。

例えば、会社レベルでの高齢労働者雇用指数、60歳以上の長期失業者を雇用しやすいように、シニア層を対象とした無期雇用契約を導入し、かつ一定の社会保険料負担を免除することなどです。

実際、フランスでは高齢者の雇用は課題であり、フランスはこの点において他のOECD諸国に後れをとっています。フランス雇用省統計局(Directorate of Research, Economic Studies and Statistics :DARES)によれば、2021年に60歳から64歳までの男女で職に就いているのは僅か35.5%で、21世紀の初めからは増加していますが、他の国との比較では低い数字です。

2023年9月以降、フランス国民は、年金改革の施行に伴って定年が延長される見込みですが、それは年金受給開始年齢が62歳から64歳まで徐々に引き上げられることによるものです。この年金改革は、すべての労働組合および人口の約70%の反対にもかかわらず採択され、過去30年間で最大のデモにつながっています。
今後行われる労働に関する交渉は、単に現状に基づくだけでなく、未来の働き方とその意味について検討する労働会議(Assises du Travail)の提言も取り入れなければならず、次の4つの柱からなります。

・アクセシビリティの高い経営を推進し、労働者をより関与させること
・仕事組織の適応、ワークライフバランスの促進、労働者の移行支援
・労働者の職業生活を通じて、効果的かつ移転可能な権利を保証すること
・労働者の身体的および精神的健康を守ること

2024年の早春に向けて具体的な提案を提出することを目標に、労使の積極的な議論への参加が期待されます。

フランスの年金改革は、年金受給開始年齢の引き上げなど、財政健全化を目的としたものですが、労働者や年金受給者からの反発は少なくありません。このような大きな改革にあって、フランスの使用者団体としてMEDEFの役割は重要で、今後、この改革がどのように実施され、どのような影響を与えるかが注目されます。