AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第42号~第46号

Contents

   1. はじめに
   2. インドネシアにおける労使問題の現状
   3. インドネシアにおける新しい労使関係の枠組み
   4. インドネシア経営者連盟の果たす役割 [1]
   5. インドネシア経営者連盟の果たす役割 [2]

 

1. はじめに

機能的な労働市場制度は、国内外からの投資のための信頼構築の一助となる。

国際通貨基金は、2016年のインドネシアの経済成長率は5.1パーセントに達すると最近の予測で述べています。他方、アジア開発銀行と世界銀行の予測はIMFより若干楽観的で、それぞれ5.4パーセントと5.3パーセントに達するだろうと予測しています。インドネシア経済は2015年に多くの課題に直面しましたが、そのうちいくつかは2016年に持ち越される状況です。
しかしながら、最近の改革政策が実を結んできており、民間部門の投資が上向くこともあり、2016年の全体の景気見通しは明るくなっています。
成長時は雇用弾性の向上努力が図られますが、これら努力が経済の減速時に雇用に与える影響を相殺できるかは明確ではありません。また、労働市場方針、特に賃金改革への含みも、明確ではありません。
明確であることは、ASEAN経済共同体(AEC)が2016年初頭に発足し、地域市場と生産拠点が一つになってできたことが、さらなる経済成長と良質な仕事を創出する余地をインドネシア共和国大統領に対して提供するということです。
しかしながら、ASEAN経済共同体(AEC)がもたらす利益は、熟練労働者に対してのみに集中しそうです。インドネシア人労働者の大半は非熟練労働者で、そのうちの半分は低賃金で不安定な労働条件で働いているため、インドネシアは国内政策、特に労働市場政策の策定を考慮する必要があります。強固な労働市場方針、戦略的な労働市場への介入と適切な法の執行がない限り、ASEAN経済共同体(AEC)の潜在的利益を得ることは難しいです。一方、所得の不平等、非生産的労働、仕事の保護と社会不安の問題は残ります。政府は、投資を支援するだけでなく、全ての国民のために仕事を創出し公正な結果を出す政策を策定し実施できなければなりません。

2.インドネシアの労使関係問題の現状

ジョコ政権は2015年の後半に、多くの経済に関する「規制緩和策」を発表しました。それらは、主に製造業やインフラ部門での国内外の直接投資を誘致するためのものでした。
アセアン経済共同体(AEC)のアプローチと同様に、留意すべき中心的問題は、インドネシア経済の競争力向上に関するものです。この中で、労働者問題は鍵となる問題の一つとされました。
この点について、政府が将来を見据えて介入すべき喫緊の課題は、生産性とスキル向上の関係と同様に、賃金政策によってコンプライアンスを高めることです。インドネシアの労働市場が価格よりも品質を通してグローバル市場で競争することが、これらの地域における発展には重要です。
2015年を振り返ると、労働市場制度の問題に適切に取り組まれないと、労使関係の問題が多かれ少なかれ続くことが分かります。業務のアウトソーシング、賃金及び社会保障護に関連する最近の問題は、長年よく知られています。
賃金政策に関する最大の課題は、上昇を続ける平均賃金とコンプライアンスの改善に関することです。これに対するカギは団体交渉の拡大ですが、最低賃金がこれほどまで重要な課題となっているのは、低い労働組合組織率と労働省に登録された労働協約の少なさのせいです。
改革は現在進行中で、これらの問題に集中的に取り組んでいかなければなりません。特に、最低賃金は「公平で分かりやすく、信頼できる」システムに改革することに注力する必要があります。
しかしながら、政府がどのように最低賃金の遵守と団体交渉の拡大に取り組んでゆくかについては、疑問があります。また、政・労・使を含む三者メカニズムが賃金評議会を通じて最低賃金を決める際の役割を制限している改革にも疑問が残ります。
新しい賃金設定政策は、年間の最低賃金上昇について政治的影響を減らし、企業に確実性を保証させようとしています。しかしながら、改革は政・労・使の利害関係者間の建設的な社会的対話の場を提供するフォーラムの負担で成り立っています。
最近の出来事は、政治活動から最低賃金設定権をなくすことはそう簡単ではないことを示しています。政策が策定された直後に、2017年に選挙を行うことになっているジャカルタと中部ジャワの2つの州では、選挙に関する政策的理由により、新しいルールに従うことを拒否しました。新しいシステムでの交渉や社会的対話のための余地がないため、集会やストライキもエスカレートしています。
生産性とスキルの面では、ASEAN経済共同体(AEC)の枠組みの下でスキルのミスマッチが一層ひどくなっています。国際労働機関(ILO)の『Asia Pacific Labor Market Update』は、インドネシアの若年労働者のほぼ半分が充分な教育を受けてこなかったため、不適格とされていることを報じています。
労働者が資格要件を満たしていないことにより、生産性の向上と高付加価値産業への速やかな移行が望めないリスクがあります。政府は、特に製造業の成長を強化している地域において、職業訓練と技能認定システムを、責任を持って拡充することが不可欠です。
メッセージは明白です。スキルに投資するか、敗れるかです。しかしながら、訓練機関への投資が成長を促すために必要であることを確認するために、使用者、労働者と政府の間で対話することが必要となります。従って、我々は、それが「ハードの技術」だけの問題ではなく、「ソフトの技術」の問題でもあることが分かります。このことは、労働者がコミュニケーション能力、交渉術及びチームワークの精神を身に付ける必要性も含まれます。地域統合により使用者、労働者と政府を一つにまとめ、一緒に働くことや対話することによって、インドネシアにより利益をもたらすことができます。これは、競争における重要な要素です。

3.インドネシアにおける労使関係の新たな規制の枠組み

(1) 最低賃金に関する新たな規制
政府は、最低賃金を決定するための新たなメカニズムを制定しました。そのメカニズムによって、従業員は年間の賃金が昇給することを確信できますが、一方そのことは、東南アジア最大の経済圏で企業が直面するコストになると思われます。
ジョコ・ウィドド大統領は、約12年間後回しにされてきた「賃金に関する政令2015年第78号」を公布、直ちに施行しました。政令では、現在のインフレ率とGDP成長率を考慮に入れた控えめな年間賃金上昇を明記しています。
政令は、インフレ率を乗じた最低賃金は、安定した購買力を確実にするものであると説明している一方で、GDP率を乗じることによって、全体の生産性の向上が保障されています。
(2) 国家社会保障改正法
一般的な健康管理と労働者向けの社会保障制度は、「国家社会保障制度に関する2004年法律第40号」に基いて、2015年の半ばから医療保険実施機関によって施行されています。
保険、或いは年金等の全労働者が強制加入する社会保障制度は、加入者が労働災害、老齢、退職又は死亡によって収入がなくなったり減少したりした際に、世間並みの基本的生活水準を維持することを目指しています。これは、年金給付が、もはや引退した公務員・軍人・警察関係者及び大企業の従業員のみになされるのでなく、全ての労働者になされることを意味しています。
その中で最も重要なことは、政府と民間部門が掛け金を算定給の3%(うち雇用主負担2%、本人拠出1%)とすることに合意したことです。掛金率は毎年見直され、最終的には8%を目指しています。
(3) 新たな外国人労働者就業規則
インドネシア人労働者の競争力を維持し、インドネシアでビジネスを行う投資家を増やすために、外国人労働者就業に関する新たな労働大臣規定2015年第16号が設けられました。新たな規則の目的は、外国人労働者の雇用を管理し、インドネシア人の労働者の就業機会の平等を維持することです。
新しい規則に基づき、インドネシアのスポンサー企業が留意する必要がある要件や外国人労働者雇用の手順の変更があります。以前の規則は、インドネシアの最近の雇用環境にもはや適合しないため、見直しが必要です。
新しい規則は、以下に掲げる、雇用者が従わなければならない新たな要件を示しています。

    ・ 外国人労働者を含む従業員のうち、インドネシア人を雇用する最低比率が決められている。
    ・ 外国人労働者が労働許可を取得するための要件が定められている。
    ・ 外国人労働者への給与は、インドネシアルピアによる支払いに限る。

4. インドネシア経営者連盟の果たす役割 [1]

—全国賃金審議会におけるインドネシア経営者連盟の役割—

インドネシア経営者連盟は、全国賃金審議会における貢献を通して、理論的なよりどころとして労働生産性と市場競争力を高める一方、賃金政策の立案と国家賃金制度の開発で政府に助言と検討事項を伝えることによって、戦略的な役割を果たしています。インドネシア経営者連盟は、全国賃金審議会において雇用者側の立場で、企業賃金開発管理制度を考案したり、報酬に関する政府統制の草案を作ったり審議会に活発に寄与しています。全国賃金審議会の機能は、以下のように詳述されます。

(1) 企業賃金開発制度の準備と立案
企業賃金開発制度の準備と立案は、雇用主が賃金等級を設定して公正な賃金制度を決めるためには、標準化が必要であるという考えに基づいていました。賃金制度を決定する際に、雇用主のためのガイドラインがないということは、バラバラな解釈を引き起こし、最後には関係者の間で論争を巻き起こすことになります。インドネシア経営者連盟は、全国賃金審議会事務局と共に会議を集中的に開催し、雇用主の支払い能力と労働者の水準に応じた標準報酬、或いは報酬等級に応じて賃金を支払う制度の作成を見込んで、法人賃金開発管理制度について議論してきました。従って、会社から労働者に支払われる報酬構造は明白で、勤務期間と経験年数に比例したものとなります。法人賃金開発管理制度の効果の1つは労働者を教育するプロセスです。つまり、賃金が生産性を向上させる能力に基づかなければならないことを意味しています。このように、ビジネスの連続性は、仕事の連続性をも確かなものにします。

(2) インドネシア経営者連盟の賃金審議会への提言
地方及び全国レベルの両方の賃金審査会のデータは、地方/全国賃金審査会のより明白な標的を短期的・長期的に一本化し最適化するのに必要です。
短期:

    ・ インドネシア全土の州ごとの最低賃金の制定
    ・ 主要政策の策定と全国賃金制度の開発への言及
    ・ 政策実現とインドネシア全土の物価調査に基づいた全国賃金制度の実行
    ・ 労働者の生産性と福祉を向上させる政策と賃金制度を通じた、好ましい投資風土の創造
    ・ 利害関係者への経済的付加価値創出

長期:

    ・ 信頼できる機関による、雇用主と労働者双方のための公正な賃金制度の新しい枠組みの制定
    ・ 賃金委員会が報酬に関して調査する権限基盤の確立
    ・ 政策及び全国賃金制度に適合させる基本的根拠としての調査資料の確立
    ・ 調査に基づいた現実の地方最低賃金が、関係者全てにさらに参照されるように促すために、最低賃金調査及び折衝が継続的且つ建設的に行われるまで、適正生活水準の確定にその制度がしっかりと統合されること
    ・ 公正な賃金の達成を目指した、長期の賃金政策と制度の分析及び開発の確立
    ・ 信頼できる機関の調査データによって裏付けられた、賃金審議会の独自目標の確立
    ・ 賃金制度に関する規定に反対の、地方で普及している規制は、雇用主にとって恐らく害があるのですが、そのいかなる規制の存在も避けるため、調査研究による賃金政策及び法定分析を確立すること

5.インドネシア経営者連盟の果たす役割 [2]

—若者の作業スキルの向上—
 
若者の雇用は、インドネシアの政府、雇用主及び労働者にとって、最優先の課題です。若年労働者の技能訓練において、高品質の見習い制度は非常に重要です。OJTとOFF-JTを組み合わせた見習い制度は、学習とスキル形成を促進させるだけでなく、教育界と実業界を結ぶ架け橋となることにより、雇用を促進する上で成功することが証明されています。
雇用の創出と生産性の向上に関わる産業団体として、インドネシア経営者連盟は、見習い制度について現地調査とディスカッションを実施しました。ディスカッションには見習い制度の関係者だけでなく、現地調査に参加した企業の代表なども参加しました。
ディスカッションの目的は、インドネシア経営者連盟と見習い制度のパートナーの次の段階のための、たくさんのアイデアを示し議論することでした。その結果、インドネシア経営者連盟は、企業と労働者への見習い制度を促進する上で、積極的な役割を果たすべきだという結論に至りました。企業に見習い制度を促進する上で、インドネシア経営者連盟は、労働省の規則に基づいて、インドネシア国内でその制度を始めるための雇用主に対するガイドラインを作っています。特に、それには、採用、訓練及び労働条件を含む実習生の権利と義務について触れられています。また、それは雇用者の間で、見習い制度を実施するのに役立っています。
—外国人労働者の労働許可に関する政策—
 
インドネシア経営者連盟は、政府に対して、「外国人利用手順に関する労働移住大臣規程 2015年第16号」の厳格な実施は求めませんでしたが、企業が自然に、企業の複雑さと独特さについて議論できる余地を残しました。インドネシア国内の外国人が労働しても、他国の親会社、或いは同僚との独特な労働関係のせいで、賃金やその他の報酬をインドネシアの企業から支払われない場合がよくあります。この事実は、特定のユニークな状況において見られるものであると認識される必要があり、また、インドネシアのビジネスマンの競争力を維持し、ASEAN経済共同体(ASEAN Economic Community:AEC)の枠組みの下で、インドネシアに対する投資を増やすことになります。