AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第71号~第72号

Contents
  1. インドネシアの人口動向と失業状況
    (1) 人口構成
    (2) 失業状況
  2. インドネシアの労働市場
    (1) 労働市場
    (2) 労働者研修
    (3) APINDO研修プログラム

1. インドネシアの人口動向と失業状況

 

(1) 人口構成

1968年に始まったインドネシア政府主導の家族計画は一人当たりのGDPを押し上げ、国民の所得、貯蓄、投資、貧困削減を改善する重要な政策となった。同国の人口増加率は1.2%(2015年:世銀調査)で、現在の2億5000万の人口が減少に転じるのは、2050年以降で、それまでには同国の人口の3分の2が都市部に居住していると予測されている(国連調査)。

インドネシアではこの40年間に都市化が進み、人口の半数以上が都市部に居住するようになった。この傾向は経済発展には有益で、工業化の推進により、同国は中級レベル以上の収入国になっていくであろう。大都市はジャワ島に多く、2011年の国勢調査では首都ジャカルタの人口は1000万人超であった。周辺地域から、毎朝、多くの労働者がジャカルタに出勤し、夕方には帰宅するため、ラッシュアワー時には激しい交通渋滞が起きる。

2010年の統計によれば、同国の人口の37%が20歳未満で、また約50%が30歳未満であった。この数値は生産性と創造性において大きな潜在能力を持つ。人口の伸び率は小さくなっていても、30歳以下が1億2500万人もいるため、経済の推進力となり得るからである。

 

(2) 失業状況

インドネシアでは、スハルト大統領政権下(1966~98年)で経済が発展し、特に工業やサービスセクターで多くの雇用が創出され、その結果、失業率も低下した。しかし、この好景気も1997年のアジア通貨危機で一変し、その後は失業率が20%を超え、多くの国民が能力以下の仕事やパートタイム職にしか就けなかった。都市部で失職した人のほとんどは地方に移り住み、主にインフォーマル・セクターの農業に携わった。

2000年代以降、同国のマクロ経済は大きく成長し、通貨危機を乗り越えたと言われている。都市部でも地方でも、インフォーマル・セクターは経済の主要な役割を担っており、労働者の55~65%が従事していると見られている。現在、インフォーマル労働者の80%は地方在住者で、多くが建設や農業に携わっている。失業率も低下し、同国中央統計庁によれば、2010年は8.3%であった。それ以降も微減しており、2016年は7.0%であった。

インドネシアには若年人口が多い反面、学歴はあっても就職できない若者が数百万人存在する。15~24歳の失業率は国全体のそれを超え、2006年の男女別の率は、それぞれ27.7%、34.4%であった。しかし、この年代の失業率も年々低下してきており、2011年は各々19.3%、21.0%と、男女差も縮まってきている。
同国では毎年200万人が労働市場に新たに参入しているが、彼らを受け入れる雇用の創出を促すことは、政府にとっては大きな挑戦である。特に、大学や職業訓練校の新卒者がなかなか仕事を見つけられないため、早急に改善措置を取る必要がある。同国の全労働力の半分が初等学校しか出ていないが、ここ数年、高等教育を受けた人が増えてきている。

賃金未払いの「脆弱労働」の割合も、インドネシアでは他の途上国よりも高い。この10年間、男性の60%が、また女性の70%が脆弱労働に従事し、多くはインフォーマル・セクターで働いた。この40年間で、タイは社会的・経済的に目覚しい進歩を遂げたが、とりわけ1980年代の成長と貧困削減は注目に値する。1960~96年に同国経済は年率7.5%で成長し、1997年のアジア通貨危機後は5%で推移(1999~2005年)、何百万という雇用を生み、何百万人をも貧困から救った。福祉面での向上も著しく、子どもたちの教育期間は伸び、健康保険については、ほぼ全国民がカバーされている。一方、2005~2015年の成長率は3.5%と減速し、2016年は2.3%に落ち込んだものの、2017年には3.5%に回復し、2018年も3.6%と見込まれている。

貧困率は、1986年からの約30年間で、67%から7.2%にまで減少したが、経済成長の減速、農産物価格の下落、ここ数年来続く干ばつにより、貧困と格差は今なお深刻な課題となっている。同国内に存在する710万人の貧困層の80%以上が農村地域で暮らし、その内の670万人は貧困ラインを20%も超えたところで生活している(2014年)。過去30年間で格差は縮まったが、世帯収入や消費の上での格差は全国で見られる。

同国の経済回復の度合いは、インクルージョン(共生)を推進しながら、いかに早く構造的な制約を成長に転じられるかにかかっている。20年国家戦略(2017~2036年)での長期目標は、経済的安定、人的資源の確保、平等な経済機会、環境持続性、競争力、有効な政府官僚制等を通じ、同国を先進国の仲間入りにさせることである。近年行われている改革には、鉄道路線の複線化に関係したインフラ・プロジェクトの導入、ビジネス上の規制緩和、国営企業政策委員会の設立、相続税の導入、国家貯蓄ファンドの創設、非正規労働者への退職補償等がある。これらの改革に欠かせないのは、一定ペースの継続性、改善の質、健全な導入により競争力低下を防ぐことであり、公共セクター、教育、技能の改善は、特にタイを高所得国にするのに重要となっている。

「タイランド4.0」は、タイ経済をイノベーション主導に変えるビジョンである。4.0に至るまで、農業主導の1.0、軽工業主導の2.0、重工業主導の3.0と段階を踏んできた。4.0には、次に掲げる3つの要素がある : 1) 研究開発、科学技術等の知識主導の経済開発を通じた高所得国入りの実現、2) 繁栄と開発の成果に平等にアクセスできる共生社会への移行、3) 環境を破壊することのない持続的な経済の成長・開発の遂行、である。

「タイランド4.0」には以下の4つの目標がある。

1) 経済的繁栄 : イノベーション、技術、創造性という価値観が主導する経済をつくる。研究開発費をGDPの4%にまで引き上げることを目標とし、5年以内に5~6%の経済成長率を達成し、一人当たりの国民総所得を、2014年の5,470米ドルから2032年には15,000米ドルを達成する。

2) 社会的幸福 : 社会全員の可能性を実現できるような共生社会をつくる。格差を減らし、20年以内に社会福祉国家に完全移行し、5年以内に2万世帯の「スマート農家」を創出する。

3) 人的価値の引き上げ : 国民を、「21世紀の有能な人間」にする。10年以内に人間開発指数(HDI)での世界トップ50入り、20年以内に5大学の世界トップ100高等教育機関入り、を目指す。

4) 環境保護 : 気候変動と低炭素社会に対応できる経済制度を持つ住みやすい社会になる。世界で最も住みやすく、テロの危険が少ない10都市に入る。

「タイランド4.0」は、以下の4つの主要要素を通じた制度改革である :1) 伝統的農業を、管理と技術を重視した近代的農業に変え農家を裕福にする、2) 伝統的中小企業又は公共中小企業を常に支援し、スマート企業及び高業績企業にする、3) 低コストの伝統的サービスから高価値、最高仕様のサービスへ移行する、4) 高度な技術を持たない技術者を熟練した技能や技術を持つ技術者に変化させる。

このように、「タイランド4.0」は、伝統的な農業をスマート農業に、伝統的中小企業(SME)をスマート企業に、伝統的サービスを高価値サービスへ変えていくであろう。

2. インドネシアの労働市場

 

(1) 労働市場

インドネシアでは求人の開拓をマンパワー省(MOM)が行っている。人材を求めている人・組織は、必要な人材の資格や人数をMOMに報告し、MOM労働局が求人募集のあることを公示する。一方、求職者は、自身の履歴書を同局に提出するが、その記載内容は非常に重要となる。内容が採用条件にマッチすれば、同局は求職者を、人材が欲しい人・組織と、更なる交渉に結び付ける。

MOM以外にもインドネシアには民間の求人紹介業者がいる。彼らは求職者を探し、情報を集め、労働力を求めている人・組織に人材を提供するが、マレーシア、香港、サウジアラビア等の海外にも派遣する。業者は募集した人材に対し、派遣前研修を行う。両者の条件が合えば契約締結につながり、業者はそのサービスの対価のコミッションを獲得できる。

 

(2) 労働者研修

実際、多くのインドネシア人が、MOMと連携した職業訓練センター(BLK)のような施設で、研修に参加している。これは「全国職業訓練制度に関する2006年政府規則第31号」に則った事業で、BLK279センターのうち、17は中央政府、残りは地方政府が管轄している(2016年)。

新規労働者に向けた教育プログラムに実習制度がある。これは卒業直後か、卒業間近の学生を対象とし、社員候補者に一定の技能を習得してもらう制度である。企業にとっては、自社に必要な技能を持つ労働者の獲得が目的であり、学校の必修科目ではない。本制度の一般的な目的には、1) 学校と実社会とのギャップを縮めるために学習と技能習得を促進する、2) 労働需要を満たすよう企業を支援する、3) 仕事の世界へのスムーズな移行を助けるために技能研修を提供する、がある。

実習制度プログラムは参加者の能力に基づいており、企業は次の3基準から1つを選択したり、幾つかを組み合わせたりすることができる。

1) 国内基準 : 規定にある仕事や職位に関連した知識、技能、心構え等をカバー

2) 国際基準 : 多国籍組織が複数国で立案・開発・使用

3) 特別基準 : 独自の目標やニーズに合うように、代理店、企業、組織等が立案・開発・使用

首都ジャカルタ周辺地域での調査によれば、本実習制度はよい結果をもたらしている。インドネシア経営者協会(APINDO)と国際労働機関(ILO)による奨励に加え、2015年に全尼実習ネットワーク(INAN) も優良企業と協力し、同制度の強化に乗り出した。INANの役割には、1) 国内での実習制度の周知・理解の拡大、2) 実践や実習経験の知識共有の促進、3) 学業と仕事間の技能ミスマッチを減らすための、実習方針の改善、がある。これらは、INANがGlobal Apprenticeships Network (本部スイス)との戦略協力体制を強めることにも役立ち、さらにはインドネシアの国際標準化の実現を可能にするであろう。

 

(3) APINDO研修プログラム

APINDOは、同協会が設立した施設、PT. Pusat Studi APINDO (PTPSA)での学習・研修を通して、インドネシア人の能力を調査し向上させたいと考えている。PTPSAのビジョンは、同国の人的資源開発の優れた中核研究拠点になることで、労使関係に携わる人材の能力開発、雇用問題・労使関係の研究、ならびに人的資源開発を高める最良のサービス提供の実現を目指している。

プログラムや活動は、PTPSAの教室で定期研修の形で行われ、また特にAPINDOの会員企業に対しては社内研修も行っている。これに加えAPINDOは、有資格の人材開発と国の内外での競争力強化に積極的に関わるために、2015年に労使関係プロ検定機関(LSPHII)を設立した。労使関係プロ検定をプロ意識を持って実施し、検定制度や品質基準を継続的に開発し、持続可能なものにすることを目標としている。

国際競争社会における業務能力検定制度は、より高い競争力をつけるために導入されたが、その役割は非常に重要である。それは、知識、技能、業務態度を測る、国が認めた正式の証明であるからだ。インドネシアの人材開発促進は、研修プログラムや検定を通して、品質、生産性、労働者の適性を高められるようモニターされるべきであり、APINDOが関わっている研修・検定センターの役割は戦略的と言える。