AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第76号~第77号

Contents

ラオスの労働市場

 1.  労働市場概要

 2.  職業能力開発

 3.  教育事情

1. 労働市場概要

ラオスは2015年の国勢調査によると、人口が650万人、15歳から64歳の生産年齢人口が64%、14歳以下が32%と、ASEANで最も平均年齢が若い国である。人口は2030年には780万人へと増加し、毎年約96,000人の若者が生産年齢人口に加わると予測されている。この「人口のボーナス」による経済への中期的な恩恵と、社会福祉事業の負担減により、より多くの資金を経済開発へ回すことができるようになる。しかし、「人口のボーナス」による恩恵を十分に受けるためには、生産年齢人口の成長と合わせて新規雇用が増え、若者が適切な技能と知識を習得する必要がある。

ラオスの若者の就業率は高く、15~19歳の48.9%、20~24歳の83.7%が就労しているが、若年雇用のほとんどが技能を必要としない低賃金の仕事である。特に農村部の若者は自給農業に依存しており、貧困のサイクルから抜け出すことができない。貧しい少数民族出身の若い女性は、中学校卒業レベルの学力であるため、この状況に拍車が掛かっている。また、5~17歳の全児童の約15%が労働しており、その約3分の2が「児童労働」に分類され、健康や福祉が脅かされている。「児童労働」をしている約94%の児童が学校を中退しているか、学校に入学したことがない。

2. 職業能力開発

ラオスでは技能労働者の不足が深刻である。これは長期的な社会経済開発だけでなく、ASEAN統合においても重大な問題である。ASEAN経済共同体(ASEAN Economic Community: AEC)への加入により中程度または高度な技能を持つ労働者への需要が高まっており、技能労働者の育成がラオスの発展には不可欠であるが、労働市場のニーズと現在の若者の教育・技能レベルは一致していない。最近実施されたASEANの使用者に対する調査によると、ラオスの中学校卒業レベルの労働者の技能が企業のニーズと一致しているという回答は3分の1のみであった。

 

職業能力・技能レベルの低さの大きな要因として、質の低い基礎教育と低い識字率があげられる。この問題を解決するためには、職業紹介(Public Employment Services: PES)制度や労働市場情報(Labour Market Information: LMI)制度を改良する他、技能認定につながる訓練プログラムの策定が重要である。職業能力・技能レベルを高めるためのさらなる課題として、2つの技能認定制度があげられる。1つは労働法(2014)に基づく制度、もう1つは職業技術教育訓練法(Technical and Vocational Education and Training Law: TVET法)に基づく制度であるが、職業能力・技能の標準、カリキュラム、訓練用資料の開発を支援する制度間の連携不足が職業能力・技能レベルの低さに拍車をかけている。

 

ラオスはASEAN技能相互承認協定(Mutual Recognition of Skills: MRS)にも参加している。MRSでは、ASEAN加盟国における8つの職業の労働力移動の円滑化のガイドラインが取り決められている。2017年2月時点、ラオスでは煉瓦工事施工職と漆喰工事施工職の2つの職業領域でMRSが有効となっているが、ラオスへのMRSの影響は限定的である。ラオスで煉瓦工事と漆喰工事に従事している労働者の数は約38,000人であり、ラオスの雇用総数の1.3%に過ぎない。

3. 教育事情

ラオス政府は人材育成を非常に重視している。教育の質を高めるために、教育インフラを開発・改良し、教育・スポーツの予算を財政支出の17%へと増加させた。その予算によって数多くのプロジェクトが実施された。教育の普及・促進、質の高いカリキュラムの開発、寄宿舎建設、出席率向上のための学校給食プロジェクト、専門学校の強化、情報通信技術学校の試験的設立等が、その具体例として挙げられる。また、全国の小学校に対し補助金を支給しており、2011年度~2012年度は児童1人あたり20,000LAK(ラオスキープ)、2013年度は児童1人あたり50,000LAKの援助が行われた。幼稚園、中学校、高等学校に関しては、1人あたり1年につき20,000LAKが教育機関へ支給された。

 

これらの努力により、ラオスの教育は質的にも量的にも改善され、様々な目標が達成された。例えば、小学校の純就学率について、2009年度~2010年度は92.7%であったが、2014年度~2015年度には98.6%へ上昇し、2015年度の目標である98%を達成した。中学校の就学率についても、2014年度~2015年度に78%に到達し、目標の75%を達成した。同様に、高等学校の就学率も、2014年度~2015年度に45.7%に到達し、目標の43%を達成した。

 

しかし、いくつかの課題に関しては目標達成にはまだ遠い。例えば、小学生の残存率(最終試験に合格する生徒の割合)の目標は、2015年度までに95%に達することであったが、2012年度~2013年度は71.4%、2014年度~2015年度は78.3%であった。教育インフラ改良のための投資が行われてはいるものの、特に小学校1~2年生の留年率・中退率は増加し続けている。また、教育課程の在籍者数の男女比に関して、男性を1とした時、女性は小学校では0.95、中学校では0.91、高等学校では0.84、専門学校では0.6となっており、教育が高度になるほどジェンダー間の差が大きくなっている。

 

識字率の向上に関しては、子供の学びを可能にするための「万人のための教育」プログラムのもと、3つの県(Savannakhet、Khammouane、Sekong)の田舎で6歳~14歳の児童に対し移動教育を試験的に実施している。15歳以上の識字率は81.7%から93.6%へと上昇し、目標の87%を達成することができたが、更なる識字率向上のためには学習教材や教師の不足、予算不足の解消が大きな課題である。